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“板”の上に立てなければ役者は終わり。その思いを胸に、東欧の風薫る舞台で新境地を開く。

リーガロイヤルのお客様
俳優 佐々木 蔵之介さん

 映画にTV、そして舞台で活躍する俳優・佐々木 蔵之介さん。その最新の舞台がルーマニアの国民的詩人であるマリン・ソレスクの代表作『ヨナ-Jonah』である。旧約聖書の聖人ヨナの逸話を題材としたこの戯曲を、ルーマニア演劇界の巨匠、シルヴィウ・プルカレーテが演出し、ヨーロッパ4カ国6都市での海外ツアーを行った。蔵之介さんは、この公演を“ひとり芝居”で演じ、その渾身の演技はヨーロッパ各地で大きな感動を呼び大成功を収めた。2025年秋、満を持して日本での凱旋公演に臨む蔵之介さんに、今の心境を伺ってみた。

言語の壁を超えて、役者と観客の心が共振する。
互いの感動が渦巻く、貴重な舞台を体験

昨年は、大河ドラマ『光る君へ』では主人公・まひろ(紫式部)の夫・藤原宣孝を演じた。地元・京都にゆかりのある仕事は、やはり嬉しいという蔵之介さん。リーガロイヤルホテル京都はとくに最上階の「トップ オブ キョウト」に思い出があるそうで「回転レストランですよね?家族や地元の友達とよく行きましたよ」

 2025年6月26日、蔵之介さんはルーマニアのシビウ国際演劇祭で『ヨナ-Jonah』を上演し、シビウ市の文化芸術に貢献した人に贈られる「ウォーク・オブ・フェイム」を受賞した。この演劇祭は欧州三大演劇祭の一つの規模を誇り、シビウという街に世界70カ国以上からアーティストが集まり、演劇やダンス、音楽ライブなど、延べ300以上のパフォーマンスが屋内外を問わず、街のいたるところで披露されるという。蔵之介さんはシビウに1ヶ月ほど滞在して稽古を行い、『ヨナ-Jonah』の舞台に臨んだ。舞台づくりや役づくりをする一方で、スーパーで買い物をして街のバーで現地の仲間と飲み、お気に入りの公園で台本を読むなど、この街の普通の暮らしも楽しんだそうだ。

 「シビウは小さな街ですが、劇場も多く、街の人々も演劇にとても熱心で、造詣が深い。特に演劇祭の時は街中が熱気に包まれて、地元の老若男女が全員参加するくらいの勢いで、まさに“演劇の街”といえる場所でした。今回はここに暮らしながら、演出家シルヴィウ・プルカレーテやスタッフの仲間たちとともに、舞台を一から創りあげていきました。日本だと緻密なプランが組まれて、スケジュールに沿ってきちんと舞台を創っていくということが多いのですが、ルーマニアは大らかで、あれやこれや意見を交わしつつ、まさに手作り感覚で一緒に創っていく楽しさがありました。大らかとはいえ、そこはプロフェッショナル同士が集まっていますから、大雑把とは全く違い、より素晴らしい舞台にすることを目指して完成させていったという思いがあります」

 演出家のシルヴィウ・プルカレーテと蔵之介さんは『リチャード三世』(2017年)、『守銭奴』(2022年)に続く三度目のタッグとなり、互いの信頼関係も築かれている。しかし、蔵之介さんがヨナをどう演じるのかを懸命に考えて、「よし、これでいこう!」と思っても、シルヴィウ・プルカレーテから求められるものは想像をはるかに超えるものが多く、戸惑いながら、試行錯誤を重ねたという。

 「この話は簡単に言うと、漁師のヨナがクジラにのみ込まれ、たった一人暗闇の中で孤独や絶望に打ちひしがれて、クジラの体内から生還するため、一筋の光を見い出していくまでを描いた物語なんですが、僕自身、単身ルーマニアに来てひとり芝居をする自分、懸命に役づくりをする自分を重ね合わせる部分もありました」

 キリスト教という宗教観や原作の戯曲への理解、難解な詩的な台詞など、ハードルもさまざまにあった。さらに、言語の異なる日本語で演じるとなれば、その困難さは素人でもそれなりに予想できる。蔵之介さんはどんな思いで、この舞台に立ったのだろうか。

 「まず、ドリアン助川さんが翻訳と修辞を担当してくださり、その素晴らしい内容に助けられました。これは本当に心強かったです。また、本番では字幕があるとはいえ、全く不安がなかったといえば嘘になります。僕ができることは、舞台に立てば懸命に演じるだけ。そうやって演じるうちに、現地のお客さんたちが初めて触れる日本語という言語に耳を澄ませ、五感を研ぎ澄ませて、もう体全体でのめりこむように、僕が発する知らない国の言葉の奥にある何かを聴き取ろう、闇の中にある何かを見ようとしてくれたんです。観客席からの熱量と集中力がこちらに真っ直ぐ伝わってきて、僕も全身で受けとめて、心と心が揺さぶられて共振する、互いの感動が渦巻いて動く、そんな舞台になっていったと思います。僕にとって素晴らしい経験でした」

暮らしの中に漂う密かな緊張感。 東欧の国々の歴史を改めて考える

休暇が取れたら行きたい国は?と尋ねると「旅行先に特にこだわりはありませんが、今、世界中で最もハグができる友人が多いのがルーマニアですから、また、ぜひ行きたいですね」

 ルーマニアでの『ヨナ-Jonah』の初演は1969年のこと。当時、共産党政権下にあったルーマニアでは検閲に触れて、すぐに上演が打ち切りになったという。

 「マリン・ソレスク自身、反骨の詩人と称されていて、共産党政権のもとで劇場だけは人々の自由への願望を発露できる場所だったのではないかと思います。ルーマニアでは古くから演劇が盛んで、大小の劇場が多くあるのも、そういった歴史的背景があるからかもしれません。『ヨナ-Jonah』がはじめて出版されたのが1968年で、僕が生まれた年と同じなんです。とても不思議な縁を感じました」

 『ヨナ-Jonah』の上演で巡ったハンガリーやブルガリアと同様に、ルーマニアはウクライナと隣接している。日本にいる時よりもはるかにロシアとウクライナの戦争が身近なものに感じ、シビウ滞在中は常に街全体から一種の緊張感が漂っていたと蔵之介さんは振り返る。さらに滞在中にルーマニア大統領選挙が行われ、人々の関心度も緊張感もただならぬものがあったという。

 「共産党政権下から民主革命を経て、今また隣接する国で戦争が起きている。選挙中は、この国のこれからの道筋を決める首長を選ぶのだという気概と大統領選挙の重みがひしひしと伝わってくるようでした。地続きで国境を持つヨーロッパという土地の、それぞれの国の歴史とそのあり方は、僕たち日本人には頭では分かったようでも、本質は全く分かっていなかったと実感しました」

“板”の上に立ち続けたい。 揺るがぬ矜持を抱いて舞台に立つ

 なかなか休みを取れないという蔵之介さんだが、2、3日でもオフの日があれば、国内外を問わず、旅をするそうだ。急に旅に出かけることも多いので、大概は一人旅。一人で旅を計画し、気ままに過ごすという。旅先のホテルでの過ごし方も蔵之介さん流の楽しみ方があるらしい。

 「海外だとホテルで朝食を取るとスパークリングワインが置いてあることがよくありますよね。そういう時は遠慮なく、いただいてしまいます(笑)。自宅だと“朝から何を飲んでいるんだ、俺?”とつい自問自答してしまいますが、旅先だとまったく問題ありません(笑)。飲んでいるうちにいい気分になって、部屋に戻ったらまたベッドに潜り込むなんてこともよくあります。この“いつもと違うひととき”を楽しめるのが旅の醍醐味ですし、リフレッシュになっているのでしょうね。旅先に持っていく本ですか? 本はあまり持っていかないのですが、持っていくとしたら“台本”ですかね(笑)」

 それが冗談に聞こえないほど、年中、ドラマや映画に引っ張りだこの蔵之介さんだが、いつどこで見ても若々しく体型も維持されている。その秘訣をお聞きすると…。

 「お酒も好きですし、食べ物も制限などしていません。以前はジムに通っていましたが、だんだんトレーニングをしなくなってプールで泳ぐだけになってしまい、そのうち、プールも利用しないで風呂にしか入らなくなってしまって…(笑)、結局、やめてしまいました」

 では、なぜその体型を維持できているのか? その謎はこのあとの会話で解けた。蔵之介さんはデビュー以来、年に1、2回の舞台をずっと継続している。“舞台は大変だけど達成感があるでしょう?”とよく言われるそうだが、達成感よりも断然、キツいという感覚の方が勝ると苦笑する。

 「ドラマや映画はOKをもらうもので、舞台は稽古に行くたびにダメ出しをくらうものという感覚が僕にはあります。公演中は生のお客さんを相手に、プレッシャーや緊張感も半端なく続きますし、体調やメンタルの管理などもしっかりしなくてはいけないし、正直、舞台は心身ともにキツい…!というのが本音です。でも、僕自身、小劇場の出身ということもあって、舞台は僕の原点ですし、“板”(舞台)の上に立てなくなったら役者として終わりという思いを、ずっと持ち続けています。『ヨナ-Jonah』」が終わっても、きっとまた舞台に立つだろうし、ずっと続けていくでしょうね。もしかすると、この舞台に立つことが、体と精神のバランスを保つ健康法かもしれませんね」

 最後に改めて、『ヨナ-Jonah』日本公演の舞台をご覧になるお客様にメッセージは?

 「何か一つのメッセージを皆さんに送って、同じものを共有してもらいたいということは特にないんです。まずは、一人でも多くの方にこの舞台を“体験”してほしい。そして、それぞれの受けとめ方をしてもらえればと思っています。100人いれば100通りの受けとめ方があっていいんだと…。演じながら、一つの戯曲からこんな素晴らしい舞台空間をつくることできるのだ…!と僕自身が心底、驚き、感動したのも事実です。東欧の香りがふくよかに感じられる作品に、日本人の僕がどんな風に自分の演技を重ねていくのか? 東洋的な感性を融合させていくのかを観ていただければと嬉しいです。きっとこれまで見たことのない、新鮮な、全く新しい作品をお届けできるのではないかなと思います。今回は、言葉のハンディがなく、僕の言葉がダイレクトに届くわけですから、その瞬間の皆さんの反応が本当に楽しみです。ぜひ、劇場にいらして『ヨナ-Jonah』を “体験”してみてください」

聞き手/郡 麻江

写真/川隅 知明

撮影場所/リーガロイヤルホテル京都

           バーグラナダ

ヘアメイク/Shinichiro(IKEDAYA TOKYO)
スタイリスト/勝見宜人(Koa Hole inc.)
衣装提供/シャツ:SARTO 【info@sarto-designs.com】
パンツ:Kiivu【BLANDET Tokyo miyamoto@miyamotospice.com】

佐々木蔵之介ひとり芝居 『ヨナ-Jonah』

旧約聖書の聖人「ヨナ」の章を題材にした、ルーマニアを代表する詩人、マリン・ソレスクによる戯曲をベースに東京芸術劇場 とルーマニア・ラドゥ・スタンカ国立劇場の国際共同製作により、新たな舞台が生み出された。単身、ルーマニアに渡った佐々木蔵之介が、ルーマニアを代表する演出家、シルヴィウ・プルカレーテと共に現地でつくり上げた舞台は東欧4国で先行上演され、大好評を博した。2025年10月1日より東京芸術劇場を皮切りにJAPANツアーを開幕。他、金沢・松本・水戸・山口・大阪にて公演が行われる。

https://www.geigeki.jp/performance/
theater377/

佐々木蔵之介フォトブック

『光へと向かう道『ヨナ』が教えてくれたルーマニア』

『ヨナ-Jonah』ヨーロッパツアーの軌跡に、オフショットを交え、シビウの美しい街の中での撮り下ろし写真を綴ったフォトブックが9月14日より販売中。

 

Anchor shopにて発売中

舞台「ヨナ」各公演劇場でも発売予定

https://shop.anchor-mg.com/

佐々木 蔵之介(ささき・くらのすけ)

1968年京都府出⾝。「劇団惑星ピスタチオ」の旗揚げに参加し、退団後に上京。2000年NHK連続ドラマ⼩説『オードリー』の演技で注⽬を集め、以後、テレビ、映画、舞台など、数多くの作品に出演する。主な受賞歴は、映画『超⾼速!参勤交代』⽇本アカデミー賞優秀主演男優賞(2015年)、映画『空⺟いぶき』⽇本アカデミー賞優秀助演男優賞(2020年)、京都府⽂化賞功労賞(2023年)など多数。

 

佐々木蔵之介ファンサイト
「TRNSIT」https://sasaki-kuranosuke.com

リーガロイヤルホテル京都

バーグラナダ

TEL 075-361-9224

京都市下京区東堀川通り塩小路下ル松明町1番地 地下1階

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