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「教え子が文学賞を取ってくれたら・・・」選考委員をしている恩師の生前の言葉に突き動かされて初小説を書きました。

※当記事は冊子『The ROYAL』2014年秋号でご紹介した内容です。

リーガロイヤルのお客様 小説家 玉岡 かおるさん

 妻、嫁、母として、播州から動けない生活。それをメリットに変えて、歴史小説で新境地を開く。好奇心旺盛なたくましき作家道を伺った。

人生初の“おひとりさま”生活

 今年で作家デビュー25周年を迎え、テレビやラジオでも活躍中の玉岡さんは、カジュアル・ファッションながら華やかに登場した。

 初のエッセイ集『ホップ ステップ ホーム!』(実業之日本社刊)にあるように、「兵庫県は三木市に生まれ、同じく県内高砂市に嫁ぎ、これまた県内加古川市に住む。生まれてこのかた一度も『播磨』というエリアを出たことがない私」そこで長年、妻、嫁、母も担う兼業作家を続けてきたが、5年前にお嬢さん二人が成人し、お姑さんの介護も一段落したのをきっかけに、大阪に仕事場を持ち、週の半分をそこで過ごすことにした。50歳にして初めての〝おひとりさま〟生活である。

 「仕事場を持つ時、ソウル、大阪、東京が候補だったと本には書きましたけど、実はホテル暮らしというのもあったんです。大阪なら、中之島のリーガロイヤルホテルと考えていました。ビジネス街の一角で、ウォーターフロントにあるロケーションもいいし、活気があって、おいしいものもあるから、住んでしまえるホテルだと思って」

 結局仕事場は、川を挟んでホテルが対岸に眺められ、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した旧ビルのイメージが残る大同生命大阪本社近くに決めた。

 「『負けんとき ヴォーリズ満喜子の種まく日々』(新潮社刊)を書く時だったので、かつて満喜子がいた場所に腰を落ち着けてみようと。彼女の息吹きとか土地の力を感じるという意味でもよかったです」

 だが、約4年の大阪生活に終止符を打ち、1年前に加古川の自宅に戻った。

 「その土地にまつわる物語も本になったし、“同時多発出版”という私の作家人生でそんなにないことをやってのけられて、区切りがついたので帰ろうかなぁと」

 『負けんとき』に加えて、昨年の秋から半年間で『ひこばえに咲く』(PHP研究所刊)、『虹、つどうべし 別所一族ご無念御留』(幻冬舎刊)、『ホップ ステップ ホーム!』(実業之日本社刊)、『にっぽん聖地巡拝の旅』(大法輪閣刊)の4冊を出版したのだから、実り多き大阪おひとりさま暮らしに区切りがついたというのもよくわかる。

 今ではベテラン作家だが、玉岡さんはもともと小説家を目指していたわけではないという。

子育てをしながらの作家デビュー

 「子どもがいるし、田舎だし、家から動けないから、できることは書くことだけだったんです」

 賞品目当てに雑誌のエッセイ募集に投稿し、子育てエッセイでは連戦連勝だったとか。

 「趣味で同人誌にも参加していたんですけれど、指導者の神戸大学の川端先生が突然亡くなられてしまって。先生は神戸文学賞の選考委員をされていて、生前、『誰か自分の教え子が賞を取れへんかなぁ』とおっしゃっていたので、お通夜の帰りに『そんなん、私しかおれへんやん』と思ったんです。先生の弔い合戦をと思って、書き上げたのが『夢食い魚のブルー・グッドバイ』で、神戸文学賞をいただき、それが新潮社の目に留まり出版できて、作家デビューしたんです。先生がお亡くなりにならなければ、文章を書くのが趣味の主婦で終わっていたと思います」

取材に行けないデメリットは地元を書くことでメリットに

 「取材に行けないけど、私以上に播磨の文化、歴史、方言を知り尽くしている作家はいない。それが強みになると発想を変えて、播州にまつわる歴史小説に目をつけたんです。それで書いた『をんな紋』(角川書店刊)が山本周五郎賞の候補になったことが自信になりましたね」

 超多忙な中でも、宝塚、歌舞伎、ヨン様から始まった韓流、最近のEXILEからOSKまでハマッたものは数多い。

 「きれいなものが好きなんです。『お家さん』(新潮社刊) がドラマ化された時、主役が天海祐希あまみゆうきさんと聞いて『ご褒美ですか!』と感激しました。EXILEのTAKAHIROは、スペインのサグラダ・ファミリア教会で、偶然、人にぶつかったら彼だった、というサプライズ。あまりの美しさにストーンとハマりました(笑)」

 今、小説は書き下ろしで天平時代に挑戦中。来年は三木市の市制60周年記念事業で『虹、つどうべし』がミュージカルになるのが楽しみだという。これで播州に落ち着くのかと思ったら・・・。

 「家にいると安らぎすぎてしまうから、またどこかに出て行くことも作戦中なんです(笑)」

(聞き手/柴口 育子 写真/川隅 知明 )

撮影場所/リーガロイヤルホテル(大阪)
オールデイダイニング リモネ内「ラ・ロンド」

※当記事は冊子『The ROYAL』2014年秋号でご紹介した内容です。
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