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これからのリーガロイヤルホテルが目指すもの、建築家、吉田五十八氏の意匠を継承しつつ進化し続ける。

※当記事は冊子『The ROYAL』2019年夏号でご紹介した内容です。

リーガロイヤルのお客様 スペシャル対談

株式会社竹中工務店 顧問 天野 直樹さん(写真右)

株式会社ロイヤルホテル 代表取締役社長 䕃山 秀一さん(写真左)

䕃山 大阪は今年6月のG20大阪サミット、9月からのラグビーワールドカップ、2025年の大阪万博と国際的なイベントが多数控えております。これを機に私どもリーガロイヤルホテル(大阪)は新館(タワーウイング)1階のメインロビーを12年ぶりに改装中で、それを天野さんが顧問を務めていらっしゃる竹中工務店さんに施工していただいています。

天野 1973年の新館建設時も、数寄屋建築を独自に近代化させた日本を代表する建築家の吉田五十八よしだいそや先生が意匠設計をされ、竹中工務店が施工を担当いたしました。私はまだ入社前で、関わらせていただくようになったのは24年前の改装時からです。

䕃山 今回の改装は、新館開業時にメインロビーに敷いてあった「万葉の錦」という色とりどりの紅葉の文様を散らした緞通だんつうを、現代風に生まれ変わらせて復活させるのが一番の目玉なんです。

天野 新元号の「令和」の出典も『万葉集』ですので、タイムリーですね。

䕃山 ああ、そうですね! 図ったわけではありませんが、ちょうどいいタイミングになりました。「万葉の錦」はかなり華やかな緞通ですよね。なぜあんなに華やかなものにしたのか。吉田先生の資料によると、ロビーの天井が低かったので、お客様が入って来られた時に、目を床に落としたかった。そのために目を引く緞通を作ったそうで、そして目線を金蒔絵きんまきえを施した柱に上げて、「すごい模様ですね」と眺めながら進んで行くと、メインラウンジの奥に滝が見える。店内の床には「曲水の宴」を模した川の流れがあり、上を見ると「紫雲のシャンデリア」がある。そういうストーリーを考えて、構造上の欠点をカバーしたそうですね。

天野 さすが吉田先生ですね。

「新元号の令和の出典も『万葉集』、“万葉の錦”はタイムリーです」(天野)

万葉から昭和まで、日本の各時代が融合している

天野 私にとって一番興味深いのは、吉田先生がこのホテルに日本のいろいろな時代をフュージョンさせておられるところです。「万葉の錦」は、『万葉集』が編まれた奈良時代の中期ぐらいですかね。

䕃山 ロビーの柱の金蒔絵は平安時代。

天野 メインラウンジの「曲水の宴」もほぼ平安時代。藤原一族が栄華を極めた時に、川に盃を流して、自分の前を通り過ぎるまでに詩歌を詠まなければいけない、という貴族社会の年中行事を模したものですから。

䕃山 メインラウンジの床に川を作り、本当に水を流しているのです。

天野 それから、1965年にここの前身の大阪ロイヤルホテルができた時、これはもうないのですけど、今のリモネのところに書院造りのラウンジがあって、室町時代ですね。そこに尾形光琳おがたこうりんの「燕子花かきつばた図屏風」の綴織がかけられていて、「ラウンジ かきつばた」と名付けられた。

䕃山 「燕子花図屏風」の綴織は、今も新館2階のエスカレーターの前に飾ってあります。

天野 いいですね。実は私も前回の改装の時、「万葉の錦」がなくなるのが残念だと思い、リーチバーの前に敷いて残してもらったんです。

䕃山 それであそこにあるんですね。

天野 宴会場の「山楽の間」は、安土桃山時代に活躍した狩野山楽の屏風絵「吉野龍田の図」を再現した西陣綴織がかけられている。

䕃山 桜と紅葉の文様で、お客様には「華やかだ」と大変好評です。

天野 メイン宴会場の「光琳の間」は、尾形光琳の「燕子花図屏風」をテーマにして緞帳と壁紙にその文様を使っているので江戸時代。「リーチバー」は柳宗悦の民芸運動に協力したイギリス人の陶芸家バーナード・リーチの着想を再現したものだから昭和です。

䕃山 万葉から昭和まで揃っている。

天野 それがこのホテルの特色です。館内の至るところに、日本の芸術史にまつわる物語があるのです。

「50年前の物語を復活させ海外の方々にも発信したい」(䕃山)

䕃山 今回の改装はカッコよく言えば、ロイヤルホテルのリブランディングなんです。G20を始め世界的な行事がある中で、我々が世界に発信できるものはメインロビーではないかと思い、50年ほど前に作られたストーリー性があるものを復活させて海外のVIPの方々に見ていただこうと。ただ、全く同じものではなく現代風に変化もさせています。

天野 「万葉の錦」も紅葉の大きさを昔の2倍にして、色も青を減らして暖色を多くされていますね。製作は前回同様に、オリエンタルカーペットさんにお願いしていて、前の緞通を織った職人の方が今もいらっしゃっているそうで、今回も責任者として担当してくださっているという話をうかがって驚きました。

䕃山 物語は尽きませんね。今回のロビーの改装をスタートに、照明やサイン(案内板)、スタッフの制服などいろいろ変えていきます。1970年の大阪万博を目指してできたホテルが50年経ってもまだ色あせていないことを見ていただきたいです。

メインロビーを華やかに飾る緞通「万葉の錦」。1973年の新館開業時から2007年までメインロビーに敷かれていたものを現代的にリデザイン。能装束から着想を得た紅葉模様を大柄にアレンジした鮮やかな柄が、ロビーに足を踏み入れた瞬間から目を引く。

(聞き手/柴口 育子 写真/川隅 知明)

取材場所/リーガロイヤルホテル(大阪) サロンドール

※当記事は冊子『The ROYAL』2019年夏号でご紹介した内容です。
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