STORY

大作家を夢中にして寝かせない北欧ミステリー

ホテルで 1 冊

旅先やホテル滞在中に読みたい書籍を、さまざまな方の視点から紹介する連載。
Vol.2 選書:宮本 輝さん(作家)

 幼少期から 21 歳まで、リーガロイヤルホテル(大阪)から徒歩 10 分の場所で暮らした宮本 輝さん。そんな宮本さんにとって中之島界隈は庭のようなもの。「老舗ならではの佇まいで落ち着かせてくれる大好きなホテル」、と公言する宮本さんに“ホテルで読みたい一冊”を聞いた。

旅先でも欠かさない、就寝前の読書

 寝る前に読書をするのが僕のルーティン。ずいぶん前からですが、隣に寝ている家内を起こさないよう、灯りをつけずに読書ができる電子書籍を使うようになりました。電子書籍は老眼の僕でも見やすいサイズに字が拡大できますし、どんな大作でも片手で持てる重さの中にデータ化できるから便利。愛用しています。
 自宅にいる時に読むのは、主に学術書や歴史書。現在進行中の仕事に関連する作品が多いのですが、1 時間半近く読んでしまうこともしばしば。かえって目が覚めてしまうので、電子書籍を閉じてから家内に迷惑を掛けないようイヤホンをつけて、5 代目古今亭志ん生師匠の昭和 30 年代頃の音源を聞きます。
 1 席の長さが 20~30 分ある音源を数席分聞くので計 1 時間半。つまり、布団に入ってから約 3 時間後にようやく眠りにつくわけです。これが毎晩のルーティン。旅に出た時もほぼ変えません。

イラスト/塩川 いづみ

深夜 0 時から読み始めた結果…

 ホテルに泊まるのは仕事の場合がほとんど。やはり東京が多いです。編集者との打ち合わせ後に食事に行き、客室に戻るのは 21~22 時頃。シャワーを浴びてパジャマに着替えてからが自分の時間。心地よい疲労感を味わいつつ、電子書籍にストックしてある作品を何冊かを読みます。さすがに旅行中は疲れているので、エンタメ系の作品を読むようにしています。
『ミレニアム 1 ドラゴン・タトゥーの女』は、そんな東京出張の際に読みました。出版されて間もない頃にある編集者から勧められて電子書籍に入れていたのですが、そういう鳴り物入りはがっかりすることも少なくないのでしばらく放置していました。ただ、世界的にヒットしていることを知ってはいたので、いい機会だと思って読み始めました。
 結論から言うと、ものすごく面白かった。主人公はスウェーデン人の女性なのですが、いわゆる北欧の典型的な強くて大柄でというイメージとは真逆。子どもみたいに小柄だけれどもアグレッシヴで、名うてのハッカーで、さらにワケあり。すごくクセが強いキャラクター設定がユニークで、この先はどうなるんだという興味がどんどん湧いてきて読みふけりました。
『ミレニアム』は 3 部作で、それぞれが上下巻に分かれているうえ、1 冊がかなり分厚い。一般的な文庫本に換算すると 6 冊分ぐらいあると思います。それを僕は深夜 0 時ごろから、10 時間かけて一気に読んでしまったのです。自分でも初めての体験で驚きました。ふと、僕は何をしに東京に来たのだろうと思ったぐらい(笑)。もう 1 度シャワーを浴びて爆睡。次に目覚めたのは夕方でした。

北欧ミステリーに魅せられるきっかけに

『ミレニアム』は、『ドラゴン・タトゥーの女』『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』の 3 部作を通して、主人公であるリスベットの過去の秘密を解き明かす作品。つまり『ドラゴン・タトゥーの女』は序章に過ぎないので、ぜひ 3 作とも読まれることをお勧めします。その際は、時間をたっぷり取っておかれることもお忘れなく。
 元来、僕はミステリー好きですが、『ミレニアム』シリーズのような傑作に出合ったのは本当に初めて。この経験から北欧系のミステリーに目覚めました。けれども著者のスティーグ・ラーソンはすでに亡くなっているので、本作を超える作品には未だ出合えていません。
お勧めがあればぜひ教えてください。

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