PEOPLE

こどもたちに、たくさんの本と出会って考える力を身につけてほしいと「こども本の森」を寄贈しました。

※当記事は『The ROYAL』2021 年夏号でご紹介した内容です。

リーガロイヤルのお客様 建築家 安藤 忠雄さん

「こども本の森 中之島」という図書館を寄贈した安藤さん。そこに隠された過去の偉人たちへの思いも語ってくださいました。

読書は心の栄養、自由や勇気を学ぶことができ生きる力になる

 中之島に特別な思いを持つ世界的な建築家、安藤忠雄さん。中之島周囲の川沿いに世界最長の桜並木を作る「桜の会・平成の通り抜け」に続き、自ら設計し、建築費まで負担した「こども本の森 中之島」という図書館を大阪市に寄贈して話題になっている。
 「私は大阪の下町生まれで、本を読める環境が周りになかった。ないはないなりに何とかなるが、苦労した部分もあります。読書は心の栄養で、自由や勇気を学ぶことができ、生きる力になる。こどもの頃からいい本にたくさん出会い、考える力を身につけることが日本の未来に繋がる。ここで考える力を養い未来に羽ばたいてほしいという願いを込めて作りました」
 「こども本の森 中之島」はエントランス前のテラスや、館内のさまざまな箇所から川を眺めることができる。

 「大阪のこどもたちには、自分たちの街に誇りを持ってほしい。ならば、中之島一帯がより美しく見えるようにしようと考えました」
 テラスには「永遠の青春」と名付けられた青いリンゴのオブジェが置かれ、建物内部は3層構造で、壁一面を木製の書架で囲い中央には大階段を配置。吹き抜けを回る渡り廊下や、井戸の底にいるような薄暗い空間など、好奇心を刺激する仕掛けが施されている。こどもたちはテーブル席より、本棚の隙間から堂島川が見下ろせる大階段下の狭いスペースなどがお気に入りのようで、読書に没頭している。
 「今のこどもたちは塾だ習い事だと、自由な時間がない。そういう人間は膨らみがない。大きな声で野球をしたり、目一杯本を読んだり、こどもの時にしかできないことをしないと大人になれない。せめてここでは自由に過ごしてほしい」

カーネギー図書館や中之島公会堂の寄贈者への思い

 安藤さんが図書館の寄贈を思い立った理由は他にもある。
 「鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーはスコットランドで電報配達をしていた時に図書館で本を借りて読んでいた。それが働く少年たちに知識と自己向上のチャンスを与えてくれたと感謝して、後にアメリカを中心に2千5百軒以上も図書館を寄贈した。それを知って、前から私もせめて1つぐらい図書館を寄贈したいと思っていたんです」
 中之島のなにわ橋の横を選んだことにも訳がある。
 「中之島公会堂(大阪市中央公会堂)は『義侠の相場師』ともいわれた株式仲買人の岩本栄之助えいのすけが大阪に人がたくさん集まれる場所を作ろうと建設費の100万円を寄付してできた。今の価値でいうと数十億円ですね。でも、完成する前に株取引で失敗して自殺して公会堂を見ていない。さぞかし無念であっただろうと思います。また、近くに第15代住友吉左衛門氏の寄付でできた大阪府立中之島図書館もあり、住友グループが安宅あたかコレクションを買い取り、大阪市に寄付してできた東洋陶磁美術館もある。この大阪人の想いの中心地に、こどものための図書館を作りたいと当時の市長の吉村洋文さん(現大阪府知事)に話したところ、賛成をしてくださり、計画がスタートしました」

建物は建てるだけではなく育てていくことが大切

 ただ、図書館の運営費は1年間に約5千万円がかかる。そのお金は大阪市にないとも言われた。
 「30万円ずつ5年間援助してくれる人を探そうと、1人で大阪の企業を80軒ぐらい回り、最終的には5年間で9億円ぐらいの寄付が集まりました。それ以外に私の絵とかポスターを売り約5千万円。だから、約10億円、20年間分の運営費を用意できました。建物は建てただけではダメ、育てていかないと。そのためのお金は用意しないとね」
 「こども本の森」はこれから神戸と岩手県の遠野にも作られる予定だ。精力的に活動する安藤さんだが、2度の大病も患っている。
 「がんで2009年に胆嚢と胆管と十二指腸、2014年には膵臓と脾臓を取りました。でも、ないならないでどうにかなるんです。いいこともある。時間をかけてご飯を食べるようになったし、毎日8千歩は歩く。前より健康ですよ。しかも、中国人は『縁起』が好きだから、『内臓が5つもないのに元気な安藤さんは縁起がいい』と中国からの仕事のオファーが増えました(笑)」
 安藤さんはリーガロイヤルホテル(大阪)で何度も講演会をしてくださっている。
 「ここは前身の『大阪ロイヤルホテル』の頃から知っていますよ。今も2、3週間に1回ぐらいは来ています。大きくてゆとりがあるところがいいですね。ホテルはある程度の大きさがないとね。2つの川が見渡せるところもいい。中之島の誇りのひとつでしょう」

(聞き手/柴口 育子 写真/川隅 知明 )

撮影場所/リーガロイヤルホテル(大阪) オールデイダイニング リモネ「ラ・ロンド」

※当記事は『The ROYAL』2021年夏号でご紹介した内容です。
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