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偶然が重なり、約 40 年の時を経て、誰もが自由に行き来できる「大阪中之島美術館」になりました。

※当記事は冊子『The ROYAL』2022年春号でご紹介した内容です。

リーガロイヤルのお客様 大阪中之島美術館
初代館長 菅谷 富夫さん

 1992年から30年間、美術館創設に尽力してきた菅谷さんが 初代館長となり、街や人、体験や感動が行き交い、循環する新しい形の美術館を語ってくださった。

 ようやく、本当にようやく「大阪中之島美術館」がオープンを迎えた。何しろ、1983年に大阪市制100周年記念事業の1つとして計画されてから約40年もの時がかかったのだから。初代館長の菅谷富夫さんが語る。

 「市制100周年記念事業をどうするか、大阪大学の医学部が移転して空いた中之島の土地をどう利用するかと考えていた時に、大阪の実業家、山本發次郎やまもとはつじろうさんがコレクションした佐伯祐三をはじめとする近代洋画や江戸時代の高僧の墨蹟、インドネシアの更紗などの美術品約580点をご遺族が寄贈してくださった。3つの奇跡的な偶然が重なって、美術館を建てようという話が始まったんです」

 ただ1990年に近代美術館建設準備室が設置されたものの、バブル経済の崩壊もあり、計画は遅々として進まなかった。

 「どんな美術館を作るか、時代の要請、市民の期待、行政目的などで変えていかなければなりません。それに合ったものでないと市民の支持を得られないので、基本計画は3回くらい作り直しました」

大阪中之島美術館

 『The ROYAL』の表紙になった名画の実物が見られる、こけら落とし展

 公募した建築設計の核は、フランス語でアーケードで囲われた歩行者専用の通路や自由に歩ける小径を意味する「パッサージュ」にした。遠藤克彦さん設計の美術館は、外から見ると巨大な黒い立方体だが中に入ると思いのほか明るく、1階や2階は入館券がなくても通り抜けが自由で、レストランやカフェ、ショップを利用できる。「もう美術館が美術館だけで閉じて完結していればいいという時代ではない。展覧会を見に来た人だけでなく、誰でも気軽に通れて、遊べる空間にしたいと思ったんです。デッキを付けて周辺の建物との回遊性も高くしています。昔のように美術館がセンターになるのではなく、プラットホーム的にここで何かを体験して、また次のところに行く通過点でもいいと。活動のあり方の理想がうまく形になったと思います」

 堂島川に面した2階の入り口には芝生の庭が広がり、現代美術家・ヤノベケンジさんのヘルメットをかぶり背中にボンベを付け、潜水艦にも宇宙船にも乗れるオレンジ色のスーツを着た猫の作品「シップス・キャット(ミューズ)」が出迎えてくれる。2階でチケットを購入して中に入り、エスカレーターで 4階に上がると階段の横の踊り場には、同じくヤノベさん作の「ジャイアント・トらやん」が展示されている。

 「『シップス・キャット』は大航海時代に長い航海に乗船した“船乗り猫”のことで、守り神のようにも扱われてきたもの。『ジャイアント・トらやん』は、子どもの声だけに反応する子どもたちの守り神なんです。両方とも子どもたちに人気になると思います」

菅谷館長とリーガロイヤルホテル(大阪)とはご縁が長く深い。

 「2001年に大阪市が東アジア競技大会を開催したんです。その時、文化プログラムとして、大阪、上海、釜山、香港、マカオのデザイナーの展覧会も開くことになりました。でも、予算が少なくて海外の招待客の宿泊費をどうしようかと悩んでいたところ、大阪を代表するホテルならリーガさんだと思って、いきなり電話をして相談させてもらいました。『リーガ中之島イン(現リーガプレイス肥後橋)はいかがですか』とご提案していただいて、大変親切に引き受けてくださったんですよ」

 リーガロイヤルホテル(大阪)の館内には、たくさん美術品が飾ってあるので、美術に理解があるのではと踏んだところもある。

 「初めて来た時、まず小出楢重こいでならしげの『周秋蘭立像しゅうしゅうらんりつぞう』を探しましたものね。昔はリーチバーに行く途中に平山郁夫の『続深海曼荼羅ぞくしんかいまんだら』(巻頭の写真で菅谷さんの後方の作品)がかかっていて、あ、平山郁夫はこういう絵も描いていたのかと初めて知ったこともありました」

 この『The ROYAL』でも、菅谷館長とはご縁が深い。2014年夏号から表紙に大阪中之島美術館所蔵の作品を拝借し、「ザ・中之島コレクション」として菅谷館長にその作品の解説を書いていただいている。

 大阪中之島美術館の開館記念の展覧会は、「超コレクション展」とそれに続く「モディリアーニ」。超コレクション展では、佐伯祐三の「郵便配達夫」など、『The ROYAL』の表紙でお借りした名画の実物を見ることができる。モディリアーニ展では、所蔵する「髪をほどいた横たわる裸婦」をはじめ、国内外約40点のモディリアーニの作品が展示される。どちらも楽しみだ。

(聞き手/柴口 育子 写真/川隅 知明 )
撮影場所/リーガロイヤルホテル(大阪) 日本料理 なかのしま(個室)

※当記事は冊子『The ROYAL』2022年春号でご紹介した内容です。
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