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今、落語は岐路に立っているが、落語が持つ力の大きさを信じて進めば、新しい可能性が見えてくる。

※当記事は冊子『The ROYAL』2024年春号でご紹介した内容です。​

リーガロイヤルのお客様 桂 米團治さん​

 落語だけではなく、ピアノを弾き、絵を描き、古代史を研究し、ドイツ語を操る多才な米團治さん。 オペレッタ『こうもり』にまつわる結婚秘話と、落語の未来について語ってくださった。

枝雀さんのひと言がきっかけとなり、落語家の道へ。

桂 米團治さんとリーガロイヤルホテル(大阪)は縁が深い。

「駆け出しの頃は、ここで何度も結婚式の司会をさせていただきました。裏は大変なのにお客様には何事もないような顔しか見せないプロのサービスに感心しました」

2008年10月に五代目桂 米團治を襲名した直後から、『The ROYAL』で「味な話」というホテル内のレストランを回り、おすすめ料理を食べてさまざまなことを語る連載もお引き受けいただいた。

「連載を始めてからは個人的にもよくここのレストランを利用するようになったし、宿泊もしています。ここはベッドの寝心地がいいですね。昔、僕が『薄い枕が欲しい』と言ったら、それから僕が泊まる時は必ず薄い枕を用意してくれる。やっぱりプロのサービスはすごいと感心しました」

米團治さんのお父上は言わずと知れた人間国宝の落語家、三代目桂 米朝さん。いつ頃から落語家になりたいと思っていたのだろうか。

「高校の頃からかなぁ。親父に言いかけたんですけど、『やめとけ。お前は向いてへん』と一蹴されて」

大学に行けというお父上に従って関西学院大学に入学した。

「ところが、僕が大学2年生のある日、米朝一門の宴会で(二代目桂)枝雀さんが『あきら君(本名)、噺家になりたいんやろ? 師匠、この子、噺家にしましょうな』と言い出して。米朝が苦虫を噛み潰したような顔で『ほたら、一つだけ教えます』と言ったら、枝雀さんが『ほな、名前決めましょ』となり…。その瞬間、『えっ、俺、噺家になるんや』と」

米團治さんは多趣味であるがゆえに、将来を迷いに迷っていた。

「ピアノも絵も好きだったし、松竹新喜劇が好きだったから役者や演出家もいいな。高校2年の時にスポーツ少年団の日独同時交流で1カ月、ドイツにホームステイしたのをきっかけにドイツ語も覚えていたから通訳もいいなと。ただどれもプロになる程じゃない。『でも、これ、落語家だったら全部できるかも』とちょっといやらしい野心があって噺家になろうかなと(笑)。でも、やっぱり落語家になったのは落語家の家に生まれたからという使命感が大きいですね」

死に物狂いで学生と内弟子を両立させ、父上の言うとおり大学も卒業した。その後はイケメンぶりもあって、落語はもちろんテレビやラジオ、映画に引っ張りだこに。結婚は33歳。

オペレッタ『こうもり』が結婚と落語の未来に繋がる

「僕は大きな失恋をして、生涯結婚しないと言っていたんですよ。そのフラれた子にかなり雰囲気が似てるのが今の女房です(笑)。彼女にも言いましたけど」
出会ったのはオペレッタ専門団体「喜歌劇楽友協会」の公演。
「ヨハン・シュトラウスⅡ世作曲のオペレッタ『こうもり』を上演する時、お笑いの人がやるのが通例のフロッシュ役に僕が呼ばれて。そこで彼女が娘役で歌っていたんです。二人とも宝塚歌劇のファンで宝塚の話で盛り上がって、気がつきゃ結婚してました(笑)」
去年、その『こうもり』のフロッシュ役を再び演じた。
「『全国共同制作オペラ』というプロジェクトで、ばん 哲朗てつろう指揮、野村のむら 萬斎まんさい演出でやる『こうもり』のフロッシュ役で呼ばれたんです。萬斎さんはオペラ初演出なのでどんな台本になるのかなと思っていたら、『日本人がいくら西洋人ぶったって所詮、日本人なんですよね。ならいっそ日本人として登場させよう』ということになり、舞台設定は日本で衣装は着物、台詞せりふは日本語ですが歌はドイツ語。フロッシュは第3幕しか出ないんですが、
僕は1幕、2幕も狂言回し的な役で喋ることになっていた」
前口上を実演してくださったが、わかりやすくて面白く見られそうだ。米團治さんはここに落語の未来を見いだした。
「今、落語は危機的状況で岐路に立っていると思います。お客さんを呼べる落語家もいますが、コロナ禍以降、寄席小屋になかなかお客さんが入らない。若い人はお笑いを見に行くならば、漫才の方に行ってしまう」
上方落語協会の副会長としては厳しい状況である。
「ただ、今回の『こうもり』のように、歴史のある狂言と落語とクラシック音楽が組んだら、洋の東西を問わずひっつくんですよ。それで伝統的でありながら新しくて面白いものができる。だから、落語が持つ力の大きさを信じて、愚直に、誠実に舞台を務めていれば、違う分野の人と繋がったり、新しい可能性が見えてくる。あまりあくせくせずに自分にできることだけやればいいと思っています」

桂 米團治 独演会
7/13(土)14:00 開演
会場/サンケイホールブリーゼ
大阪市北区梅田2-4-9 ブリーゼタワー7F
料金/ S 席¥4,500 A 席¥4,200
(4/14(日)10:00 販売開始)
お問い合わせ/ブリーゼチケットセンター
TEL 06-6341-8888(11:00~15:00)

桂 米團治(かつら・よねだんじ)

1958年大阪市生まれ。関西学院大学卒業。大学在学中の1978年父の三代目桂米朝に入門、桂小米朝を名乗る。2008年五代目桂米團治を襲名。2016年上方落語協会副会長に就任。趣味はピアノ、絵画、古代史研究と幅広い。コロナ禍で寄席が休業、仕事がなくなったのをきっかけにTwitter(現X)、YouTubeを開設。

(聞き手/柴口 育子 写真/川隅 知明 )
撮影場所/リーガロイヤルホテル(大阪) レストラン シャンボール

※当記事は冊子『The ROYAL』2024年春号でご紹介した内容です。

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