現在、16年ぶりとなる大阪での大規模個展を大阪中之島美術館で開催中。ベルリンを拠点に、世界各地を飛び回るようにして展覧会を開催している現代美術家の塩田千春さんは、大阪の岸和田出身。リーガロイヤルホテルにも大切な思い出があるという塩田さんにお話を伺った。
大阪中之島美術館の個展では、塩田さんの代名詞ともいえる大規模なインスタレーション作品のほか、現在進行形で描いている多和田葉子さんの読売新聞の連載小説『研修生(プラクティカンティン)』の挿絵も展示している。
糸を無数に張り巡らせて、ダイナミックでいて詩的な空間をつくりあげる塩田千春さん。今回の個展では、真っ赤なドレスと膨大な数の糸が垂れ下がった作品《インターナルライン》をくぐりぬけるようにして展示室入口へ辿り着くと、今度は一転して白い糸を縦横無尽に張り巡らせた空間に、20m長の水盤に水滴が滴るという部屋全体を使った作品《巡る記憶》が現れる。とても大胆な空間構成で、観る人の身体全体で体感する鑑賞体験が訪れる。「いつも展示する場所には事前に足を運んで、そこから作品のアイデアを考えています。大阪中之島美術館はブラックボックスの外観が特徴的な美術館ですけれど、赤いドレスの作品《インターナルライン》は外へと開けた窓がある場所に配置しました。ですから、中之島の街からでも赤い作品が見えるはず。特に夜はきれいに見えると思います」
個展のタイトルは『塩田千春 つながる私(アイ)』。コロナ禍で人と人のつながりが失われるという経験を経たことで、「つながり」を軸に展覧会を構成することを決めたのだという。その象徴的な作品が、公募で集まった1500通以上の手紙を赤い糸で織りこんだ作品《つながる輪》。「送っていただいた手紙を読んでいると、皆さんの人生を拝見したような感覚にもなって。お会いしたことはないのに、お一人お一人の存在を感じるような体験でした。『不在の中の存在』というテーマは、これまでも私がずっと向き合ってきたことなんです」
展覧会の作品制作時にどんな場所に滞在するかというのは国によっても様々。「今回はリーガロイヤルホテルに滞在し、美術館にも徒歩数分ですし本当に気持ちよく過ごせています」。
今回、大阪中之島美術館には6点のインスタレーション作品を展示。いずれも約2週間かけて現場で制作をした。塩田さんが抱えるスタッフや美大の学生さんたちも巻き込みながら、全部で3000玉ほどの糸を毎日編み続けたという。
「私にとって、糸という素材は絵の具と絵筆のようなもの。もつれたり切れたりというのも、人の感情が直接現れてくるようで、糸という素材への興味はつきません。たくさんの人に協力いただきながら制作することは本当に楽しい時間なんですが、ただ、最近は私が先生のように丁寧に扱われすぎて、、、どうすれば皆さんと距離を詰められるのかと考えています」
緊張感のある展示空間だけを見ているとまったく想像もつかないが、塩田さんは大阪のご出身で、実はかなり気さくなお人柄のようだ。日本国内での展覧会であれば必ず一度は岸和田の実家に立ち寄って、それから各地の現場へ向かうという。塩田さんにとって、やはり大阪は特別な土地なのだ。
「実家の母は地元で展示をやるといつも喜んでくれます。“今回はどんなことするん?”って聞かれたので、展示室に大きな水盤をつくってそこに水を入れた作品をつくることを伝えたら、“美術館でそんなことしてええの!? ろくなことせえへんなぁ”と(笑)。大阪に戻ってくるとやっぱり居心地がよくて、皆さん気さくで変わってないなと感じます」
ちなみに、塩田さんのベルリン生活はすでに25年以上になる。ベルリンは、才能に対してリスペクトする街なので、アーティストにとってはとても暮らしやすいそうだ。
レストラン シャンボールの「赤い糸に覆われたほろ苦いリンゴのキャラメリゼ タヒチ産バニラの香りとともに~les liens」
約2週間の制作期間は、リーガロイヤルホテルに滞在。聞けば、リーガロイヤルホテルには印象的な思い出があるのだという。「幼馴染がこちらのホテルで結婚式を挙げて、それがとてもいい式だったんです。中学校の先生も来ていて、理科の先生の隣りの席に座ったなって、そんなことまで覚えているほど(笑)。そして、その結婚式に影響を受けて、私も1年後にベルリンで結婚することになりました」
大阪中之島美術館での展覧会にあわせて、リーガロイヤルホテルではランチ・ディナーの各コースのデザートとして塩田さんの作品から着想を得た特別料理やカクテルが登場する。レストラン シャンボールでは「赤い糸に覆われたほろ苦いリンゴのキャラメリゼ タヒチ産バニラの香りとともに~les liens」を提供。飴で表現された赤い糸の再現具合に「ここまでデザインしていただけたのは初めて! ふわっとしたところとりんご飴みたいなパリッとした食感があわさっているのも驚きでした」と素敵な感想も。
今回の大阪での個展が始まる1週間前にはイスタンブールの美術館での個展も始まったため、そのオープニングに出席するためにトルコへ向かって、滞在1日で大阪に戻ってきた。そして、大阪の展覧会後は中国・成都の美術館での個展がスタート。日本を代表する現代美術家の日常はかくも忙しい。「どうしても大きなプレッシャーを感じてしまうので、そのプレッシャーをいかに受け流して平常心でいられるか、普通に笑って過ごせる日常は私にとって大切ですね。とは言いながら、私は展覧会が大好きなんです。空間があってこその作品をたくさん制作していますので、やっぱり展覧会という機会を与えられなければつくることができない。これからもいろんな場所での展覧会に挑戦していきたいです」
塩田千春<<つながる輪>>2024年撮影:木奥恵三
大阪中之島美術館『塩田千春 つながる私(アイ)』大阪中之島美術館 5階展示室10:00~17:00(入場は~16:30)2024/9/14(土)~12/1(日)休館日:11/5(月)公式サイト https://nakka-art.jp/exhibition-post/chiharu-shiota-2024/
塩田 千春(しおた・ちはる)
1972年、大阪府岸和田市生まれ。ベルリン在住。大規模なインスタレーションで知られており、その根底には「生きることとは何か」「存在とは何か」といった問いがある。2015年、ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表に選ばれる。2008年の国立国際美術館での展覧会以来となる、地元・大阪での大規模な個展『塩田千春 つながる私(アイ)』を大阪中之島美術館で開催中。
リーガロイヤルホテル(大阪)レストラン シャンボール
TEL 06-6441-0953(直通)大阪市北区中之島5-3-68
※写真はイメージです。※メニュー内容は季節・食材の入荷状況により変更する場合がございます。※状況により、営業内容を変更する場合がございます。ご利用の場合は事前にご確認ください。
(聞き手/竹内 厚 写真/川隅 知明)
撮影場所/リーガロイヤルホテル(大阪)レストラン シャンボール