TRAVEL

“知る、感じる、体験する” 夏の宮島で「旅育」

リーガロイヤルホテル広島からはじまる旅

 近年「旅育たびいく」という言葉が注目されています。子どもが日常生活から離れて旅行をすることで、様々な経験や体験をし、心・体・頭を育んでいくものです。楽しむだけというよりは教育的な観点で旅行をしていきます。今回の旅先は 5 月の G7 広島サミットで、各国の首脳がいつくしま神社を訪問したことでも注目が集まっている広島県の宮島です。
 旅人は、株式会社ベネッセコーポレーションで幼児教材の企画や編集の経験を持ち、現在はフリー編集者の榊原友子さんです。

写真提供:広島県

子どもの好奇心を刺激する母娘お や こ2 人旅

 リーガロイヤルホテル広島から広島電鉄の路面電車で約1時間、宮島口からさらにフェリーに乗って宮島へ向かう。
 今回は小学生の娘と初めての 2 人旅で、テーマは「旅育」。旅育とは、ただ楽しむだけではなく、旅での経験を通して子どもなりの発見や気づきから学びを深めることも目的とした旅だ。

フェリーの乗船時間は約 10 分。

 フェリーの船内は世界中からの観光客で大賑わい。船上で初夏の爽やかな風に吹かれて海を眺めていると、美しい朱色の大鳥居が見えてきた。すると、様々な言語で歓声が湧き上がる。宮島が、世界中から多くの人々が集まる観光地であることを改めて実感した。

荘厳な姿の世界遺産・嚴島神社

嚴島神社
写真提供:広島県

 宮島口桟橋に着くと、早速、愛らしい鹿たちが出迎えてくれて、ここから歩くこと約 15分で世界遺産「嚴島神社」に着いた。
 創建は推古天皇の時代と伝わるが、1168(仁安 3)年に平清盛により現在の寝殿造に修造された嚴島神社。参詣入口からコの字型の回廊を渡って本社へ。神社全体が瀬戸内海を敷地にした構造は、子どもが知っている神社の形状ではないため、娘は建物にも興味津々。「海に浮かんでいるみたい!」「どうして昔の人はここに建てたのかな?」。様々な疑問が湧いてきて、小さい子どもでも飽きずに参詣することができる。

 宮島に着いた時はちょうど干潮時だったので、潮干狩りをしている親子連れや観光客も大勢いて、私たちも歩いて大鳥居に近づくことにした。海に自立している鳥居の優雅な姿を近くで実感することができる。砂浜を歩いていると足元に貝が動く様子も見られて、楽しいひと時であった。
 基本的に満潮と干潮は 1 日 2 回ずつ、およそ 12 時間おきにやってくる。なので、干潮時の約 6 時間後に満潮時を迎える。満潮時にもう 1 度見に行ってみると、鳥居の印象ががらりと変化していた。「さっきと水の高さが全然違うね!」と、大興奮の娘の声が響く。理解するには難しい潮の満ち引きの概念が、実際に鳥居までの水位の変化を見ることで「こういうことか…」と理解することができ、海の不思議さを実感できる貴重な体験になったようだ。

嚴島神社

広島県廿日市市宮島町 1-1
TEL 0829-44-2020
拝観時間:6:30~18:00(時期によって変動あり)
昇殿料:大人¥300、高校生¥200、中・小学生¥100

瀬戸内海の自然と生き物にふれる体験を

「みやじマリン」 宮島水族館

 次に嚴島神社出口から 5 分ほど歩いて「みやじマリン」宮島水族館へ。「いやし」と「ふれあい」をコンセプトに瀬戸内海の自然や生物を中心とした構成で約 380 種、15,000 点以上の生物の展示を見ることができる。

迫力のあるアシカのジャンプ(左)。輪投げをしてアシカがキャッチする体験も(右)。
写真提供:宮島水族館

 アシカのライブは 1 日 3~4 回開催され、目の前でダイナミックなアシカのジャンプが見られる。また、人数限定で輪を投げてアシカにキャッチしてもらう“ふれあい体験”に参加することができる。「アシカは飼育員さんの手の動きを見て指示を待っているね」「ごほうびの魚を 1 度に沢山食べるね」など、動物と身近に触れ合うことができ、子ども目線の発見もあったようだ。

「みやじマリン」の人気者、スナメリ。写真はミハルの姉のチハル。
写真提供:宮島水族館

 次は、瀬戸内海に定住している唯一の鯨類であるスナメリの展示へ。愛らしい表情や泳ぎに目を奪われる。今なら今年の 5 月で1歳になったスナメリの「ミハル」にも会うことができる。

ペンギンとは至近距離で記念写真の撮影が可能。
写真提供:宮島水族館

 他にもカワウソの食事風景やペンギンとの写真撮影会など、多くのイベントで生き物と触れ合うことができる。

「ふれあいの磯」はナマコやヒトデなどの生きものと触れ合いができるタッチプール。(左)“カキいかだ”には、吊るされたホタテの貝殻に大きく育ったカキがびっしり(右)。
写真提供:宮島水族館

 「ふれあいの磯」では生き物に直接触れることもできる。また、「海のめぐみ」の水槽では広島を代表する海の風景“カキいかだ”の様子を観察することもできる。カキ養殖について学ぶコーナーもあり、「カキって吊るされて養殖されているのね!」と、娘は生きているカキを目を輝かせながら眺めていた。実際に見て、触って五感で楽しみながら瀬戸内海の自然に親しむことができる素晴らしい水族館だった。
 水族館を後にすると、娘が「カキが食べたくなってきた」というので、嚴島神社近くの売店で焼きガキを買って食べることに。生き物の生態から食文化への好奇心が生まれ、より楽しい観光になるきっかけにもなった。

みやじマリン 宮島水族

広島県廿日市市宮島町 10-3
TEL 0829-44-2010
営業時間:9:00~17:00(最終入館時間は 16:00)※施設整備・点検のため臨時休館日あり
入館料:一般(高校生含む)¥1,420、小・中学生¥710、幼児¥400 ※幼児は 4 歳以上就学前まで(4 歳未満は無料)
※イベントは変更となる場合があるので、詳細はホームページをご確認ください

宮島ロープウェーに乗って絶景の弥山み せ ん

晴れた日には宮島、瀬戸内海の島々が一望できる。
写真提供:広島観光開発株式会社

 生き物たちとたくさん遊んだ後は、ロープウェーで弥山に登ることにした。宮島ロープウェーの紅葉谷も み じ だ に駅から獅子し しいわ駅まで途中乗り換えて約 25 分、眼下には穏やかな瀬戸内海が広がり、浮かぶ島々が一望できるまさに絶景の空中散歩。

獅子岩展望台からは瀬戸内海の素晴らしい眺め。
写真提供:広島観光開発株式会社

 終点の獅子岩駅を降りてすぐの展望台は、弥山最初の映えスポットだ。ここから山頂まで約 30 分のハイキングがスタートする。

 弥山は宮島の最高峰で、標高は 535m。島全体が神聖視されていた宮島では、弥山も信仰の対象であり、806(大同元)年、空海(弘法大師)が唐より帰朝後に宮島に渡り、真言密教の修験道場として、大本山大 聖 院だいしょういんを開基したと伝わる。
 手つかずの美しい自然は「弥山原生林」として、1996(平成 8)年に嚴島神社とともに世界遺産に指定されている。山道を歩いていると、私たちのハイキングを応援してくれるかのように数頭の鹿が現われた。
 弥山山頂付近には虚空像こ く う ぞ う菩薩ぼ さ つを祀る弥山本堂、弥山の守護神である三鬼さ ん き大権現だいごんげんを祀る三鬼堂、大師修法の霊火を守る霊火堂など大聖院の様々な堂宇ど う うが建ち並ぶ。
 獅子岩駅から歩くこと約 20 分、最初に霊火堂が見えてきた。霊火堂には、弘法大師が修行に使った火が 1200 年以上経った今も守られ燃え続けており、「消えずの火」と呼ばれて弥山七不思議の一つに数えられている。広島平和公園の「平和のともしび」のもと火の一つにもなった。この火で焚かれている大茶釜の霊水は万病に効くといわれているそうだ。「1200 年以上も火が燃え続けているのは不思議!」と、子どもにも強い関心を示してもらえる神秘的なスポットだ。

弥山山頂からの眺め。
写真提供:広島観光開発株式会社

 霊火堂を出て約 10 分、巨大な岩のトンネル「くぐり岩」に。あまりの岩の大きさに圧倒されるが、それをくぐると弥山山頂に到着。山頂にある弥山展望台からは、天気がよければ 360 度大パノラマの美しい瀬戸内海を眺めることできる。
 初代総理大臣の伊藤博文は、弥山山頂からの眺めを「日本三景の一の真価は山頂の眺めにあり」と感嘆し、さらにその弥山の素晴らしさを広めるために、私財を投じて登山道の整備まで行なったそうだ。そのおかげもあって、山頂までの山道は初心者でも登ることができ、言葉通りの美しい眺めを楽しむことができる。

広島観光開発株式会社 宮島ロープウェー

TEL 0829-44-0316
営業時間:9:00~16:00 ※下り最終便は 16:30(時期により異なる場合がある)
運休日:悪天候による場合・点検期間
運賃:(往復)大人¥2,000、小人¥1,000
※大人 12 歳以上(中学生以上)・小人 6 歳以上 12 歳未満(小学生)
※6 歳未満(未就学児)は保護者同伴(1 名)につき 1 名無料、2 名以上は小人運賃が必要

「もみじ饅頭」「しゃもじ」を求めて表参道商店街をぶらり

もみじ饅頭作り(1 名様¥770/お土産付)の体験は初めてでも丁寧に教えてもらえるので安心(左)。羽根つきのもみじ饅頭が完成(右)。

 ロープウェーを降りると、お土産を求めて、観光客で賑わう表参道商店街をぶらぶらと。1932(昭和 7)年創業のやまだ屋宮島本店では、もみじ饅頭を実際に自分たちで作って食べられる手焼き体験ができる。週末には、親子連れやカップル、海外の観光客で予約が埋まってしまうほどの人気ぶりだそう。昔ながらの手焼き機を使って作るのだが、店員さんが丁寧に教えてくれるので初めてでも失敗なく、もみじ饅頭が作れる。
 早速、娘も体験することに。片面 30 秒ほど焼くのを 6 回繰り返す。「1,2,3,…」とあちこちで子どもたちが時計とにらめっこしながら一生懸命に回数を数えている声が聞こえる。しばらくすると「できた!」「焼けたよ!」と嬉しそうな声。あんことチョコレートの 2 種類のもみじ饅頭が完成。自分で作った焼きたてのもみじ饅頭を食べるのは、喜びもひとしおだったようだ。他ではできない、宮島ならでは体験なのでぜひ、挑戦してみてほしい。

人気のこしあん・つぶあん・抹茶・チョコ・クリームが楽しめる「もみじファミリー詰め合わせ」8 個入り¥1,000。
桐葉菓(とうようか)は、もみじ饅頭と並ぶやまだ屋の看板のお菓子。もち粉の生地であんこを包んでおり、上品な甘さでもちもちっとした食感が美味。6 個入¥960。

 やまだ屋宮島本店の1階には、バリエーション豊かなもみじ饅頭や看板メニューのお菓子がずらりと並ぶ。もみじ饅頭の一番人気はこしあん。クリームやチョコも次いで人気だそう。他にも季節限定の味もあるので、時期によってはレアな味に出会えるかも。

やまだ屋宮島本店

広島県廿日市市宮島町 835-1
TEL 0829-44-0511
営業時間:9:00~18:00(年中無休)
※もみじ饅頭手焼き体験は事前予約制(個人は 3 カ月前、団体は 1 年前から予約可能)。詳細はホームページをご確認ください。

旅の最後は、お気に入りの「宮島しゃもじ」を選びに

お土産にぴったりの名入れのしゃもじのストラップ。(左) 宮島の鹿の焼印入りのしゃもじ。(右)

 宮島しゃもじは、江戸時代に宮島の光明院で修業し神泉寺に居住していたしんせんという僧侶が、弁財天の持つ楽器の琵琶び わの形からしゃもじを思いついて、島民に作り方を教えたのが始まりと伝わる。実用的なしゃもじの他に、学問や勝負事の願いをかけた祈願しゃもじなどもある。
 かわいい宮島の鹿のイラスト入りや名入れができるストラップ型も人気で、名前を入れてもらうと、オリジナルのしゃもじストラップが完成。お友達や家族の名前を入れてプレゼントすれば、喜ばれそうだ。  

 帰りのフェリーで「瀬戸内海や海の生き物に興味が沸いたから、夏休みの自由研究のテーマにしようかな…」と、娘から嬉しい言葉をもらえた。旅を通して好奇心が刺激され、興味の幅が広がったようだ。
 宮島の旅は、穏やかな時間の中で素晴らしい自然・かわいい動物に触れ合うこともでき、また、歴史や文化を実際に体験しながら楽しく学べるスポットがたくさんあり、充実したものだった。母娘での旅行はもちろん、お孫さんと 3 世代でも楽しめるので、ご家族でぜひ、訪れてみては。

※特に記載のない場合、料金は税金・サービス料を含みます。
※各施設、営業時間に変更のある場合がございます。ご利用の際はご確認ください。
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