料理の食材や、客室のアメニティなど、ホテルが厳選した逸品はどれもこだわりの「つくり手」によるもの。ここでは、「つくり手」の豊かな想いをご紹介し、「ホテル」「つくり手」「お客様」と繋ぎます。
写真提供 / 内藤とうがらしプロジェクト
リーガロイヤルホテル東京のある「新宿」の地名は、江戸時代中期に開設された宿場町「内藤新宿」が由来です。当時、甲州街道と青梅おうめ街道の追分には多くの牛馬が行き交い、物流の拠点として賑わっていました。その内藤新宿で育てられていたのが「内藤とうがらし」。江戸で流行していた蕎麦の薬味として一躍人気を博し、宿場を通じて江戸中に広まりました。その結果、現在当ホテルのある早稲田界隈を含め、新宿近郊の農家がこぞって唐辛子を栽培。秋には畑一面に唐辛子が実り、真っ赤な絨毯が敷かれたようだったと伝えられています。しかし、明治以降は新宿の都市化により唐辛子栽培は衰退し、また辛みの強い「鷹の爪」の出現などもあり「内藤とうがらし」は消滅してしまいました。
そんな「内藤とうがらし」を現代に蘇らせるべく2010年に発足したのが「内藤とうがらしプロジェクト」です。歴史をさかのぼり、地道な努力を重ねた末に見事復活。2013年には「江戸東京野菜」に認定され、新宿名物として再び脚光を浴びています。今回は、このプロジェクトの発起人であり、地域開発プロデューサーの成田なりた重行しげゆきさんにお話を伺いました。
「食」をテーマに、全国約30カ所の地域振興に携わった実績がある成田重行さん。
「内藤とうがらし」は、江戸時代には蕎麦の薬味として一大ブームを巻き起こし、当時の七味唐辛子売りの口上にも「江戸は内藤新宿の唐辛子」という文言が登場するくらい知れ渡っていました。辛みは優しく、マイルドな味わいで、香りと旨みが豊富。特に旨み成分のアミノ酸を多く含むため出汁だしとしても活用でき、「内藤とうがらし」を浸けた水で炊くご飯のおいしさは驚くほどです。
写真提供 / 内藤とうがらしプロジェクト 「内藤とうがらし」は、葉の上に房状の実をつける八房やつふさという品種で赤い花を咲かせたように実る美しい形も特徴です。
そんな「内藤とうがらし」を当時のままの形で復活させるのは至難の業でした。まずは、原種の種を探すのに約1年奔走し、さまざまな研究機関を通じてなんとか7粒ほど手に入れることができました。その7粒の種から3年がかりで実生選抜を繰り返し、原種の種を増やすことに成功。現在は練馬や小平、三鷹などの契約農家で栽培していますが、あくまで原種を守るため、1年ごとに私が採取した原種の種で栽培してもらっています。
そもそも、そこまで原種にこだわるのは、新宿という場所にしかない「オンリーワン」の伝統資産を残したいという思いがあるからです。これまで地域開発プロデューサーとして日本全国の村や町でさまざまな特産品や文化をプロデュースしてきましたが、以前は、大都会の新宿に地域開発が必要などと思ったことはありませんでした。しかし、ある時、新宿に住む小学生の男の子が、「新宿のイメージは、ニュースで流れる悪い事件や怖い面ばかり。新宿を自慢できるようなものを何か探してほしい」と訴えてきたのです。それをきっかけに、改めて新宿の歴史や食文化などを紐解き、「内藤とうがらし」の復活を目指すこととなったのです。
ですから、このプロジェクトの目的は、子供たちが新宿という街に誇りを持てるような新宿ならではの特産品「内藤とうがらし」を広めること。私も区内の小学校で、10年にわたり“たねじい”として子供たちに教えて続けています。また、地域の活性化に役立てるべく、区内の商店街や企業、飲食店などと連携して普及活動にも取り組み、「内藤とうがらし」を食べて楽しむという文化的展開に力を入れています。
内藤とうがらしのラスク ¥1,080
テイクアウトショップ「メリッサ」では、「内藤とうがらしプロジェクト」に賛同して開発した「内藤とうがらしのラスク」を製造・販売しています。バターの豊かな風味の後におとずれる「内藤とうがらし」のマイルドな辛みがクセになる味わいで、お酒のおつまみとしても楽しめる、ちょっと大人のラスクです。地域とのご縁が繋がって生まれた、早稲田という土地をあらわす商品は地元ならでは。手土産としても人気の商品です。「地場のものを大切に育て、次世代に伝える」、そんな思いを繋ぎながら守り続けていきたい一品です。
(文・山本郁子)
リーガロイヤルホテル東京
メリッサ
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東京都新宿区戸塚町1-104-19
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