ホテルのさまざまな分野で活躍するスタッフの現場の風景やエピソードを伺いました。
大阪で開催されたAPECやG20、最近では広島のG7などの国際会議の場で、さまざまな要望に応じたきめ細やかなサービスを提供してきたロイヤルホテル。前回ご紹介したリエゾンとともに、お客様をおもてなしするうえで重要な役割を担うのが、パーティ・ご宴会(バンケット)のサービス係です。
国際会議 イメージ
「各国の要人が一堂に会する国際会議のバンケットなどでは、プロトコールという国を超えて用いられる世界基準のマナーやルールに基づいて会場をセッティングし、会食が滞りなく進むよう臨機応変に対応するのが私たちの仕事です」
そう話すのは、VIPサービスの経験も豊富で、1995年開催のAPECでは韓国大統領専属のバトラー(執事)を務めた春田 高伸こうしんさん。韓国政府からのリクエストで、外務省の面接を経てバトラーに任命され、大統領のお部屋や会食での給仕などを担当しました。
「衛生面には特に気を遣い、食器やカトラリーはピカピカに磨き上げて、漏れや不足がないよう準備しました。また、時には柔軟な対応も必要で、『大統領は先の尖ったトゲのあるような植物はお好きでない』という情報が入ったため、急遽、卓上に飾る装花を丸みのある花に変更してもらうなど、ちょっとした気配りも欠かせませんでした」
国際会議などでは、座席の配列やサービスの順番はもちろん、会場内の国旗掲揚の仕方や卓上に置く旗の向きまでプロトコールに従って入念にチェックし、シミュレーションを重ねるとのこと。春田さん曰く、「不備は許されません。99%ではダメで、100%の準備が求められます」。張り詰めた緊張感の中、ミスなくサービスを提供するのは並大抵なことではありませんが、普段の経験で積み重ねてきた技術や知識が集積する場面であり、歴史あるロイヤルホテルが培ってきたサービスのノウハウが活かされる場面でもあるのです。
晩餐会スタンバイ イメージ
そんなバンケットサービスは、国際会議などの大きな会合だけでなく、結婚式や各種パーティなど、お客様それぞれの大切な時間をおもてなしするべく、日々尽力しています。
「ご宴会の趣旨や希望にあわせて料理や演出をアレンジし、時間内に収まるようにサービス全体をまとめるのが、バンケットサービスの基本。受け入れる私たちも身だしなみを整え、統一感のある動きやお声がけで特別な場を演出します」
さらに、緊張感のある引き締まったサービスを提供しつつ、常に会場全体を視野に入れて、予期せぬハプニングに対応したり、トラブルを未然に防ぐのもプロの業。例えば、披露宴の途中で新婦の体調の変化にいち早く気付き、さりげなく中座に導くなどといった気配りでお客様をサポートしています。
「昔とはバンケットの様式やサービスも変化し、朝食などはビュッフェが主流になりました。料理の盛り付け方も変わり、伝統的なサービスの経験がないスタッフも増えています。フランス料理、バンケットの全盛期とも呼べる時代を経験してきた私は、そういった若い世代にも技術を教えて継承し、指導していくことも任務のひとつだと考えています」と春田さん。
ロイヤルホテルならではの、心のこもったおもてなしは、バンケットサービスにも連綿と受け継がれていきます。
(文/山本 郁子)
(イラスト/千秋 育子)