GOURMET

知られざるロイヤルのワインヒストリー <後編>(リーガロイヤルホテル マスターソムリエ 岡昌治)

美味探訪 Vol.2​

長年にわたり‟食のロイヤル”たらしめるのは、本場フランスでのかけがえのない経験とスタッフのたゆまぬ努力。前回に引き続いてリーガロイヤルホテルの「ワインヒストリー」をお届けします。

「どんなワインにされますか?」「少しだけいかがですか?」

 フランスから帰国後、私は「レストラン シャンボール」のソムリエに復帰しました。けれど、「レストラン シャンボール」に来られるお客様ですら「とりあえずビール」が大多数の時代。そこで、ワインを頼んでいただくために私が工夫したのは、注文の取り方でした。

 「お飲み物はいかがですか?」と聞くのではなく、「今日のワインは何にされますか?」とワイン前提でお伺いしたり、「小さいボトルもありますので、試されませんか?」とハーフボトルをお薦めしたり、「甘いワインってご存じです?」と具体的に提案したり…。地道にコツコツとワインの良さを知っていただこうと努めました。

 そうしているうちに、お客様から「この前のワインが美味しかったから今日もいただくわ」と。そして、「今度は甘くないワインを」なんて台詞を聞けるようになったときは、心の中でガッツポーズをしていました。

独自の路線で、ワインの魅力を伝えたい

 1980年代後半のバブル全盛期に‟ボージョレ・ヌーヴォーブーム”が到来したり、1995年に田崎 眞也さんが「世界最優秀ソムリエコンクール」で世界一に輝いたことでソムリエという職業が一躍脚光を浴びたり、1990年代の終わり頃に赤ワインブームがきたり、ワインは度々ブームが巻き起こります。ワインの選定も私たちの仕事ですから、もちろんブームに乗って流行のワインも仕入れます。ですが、一過性の流行だけにとらわれず、先を見据えて‟寝かせる”ためのワインも買い付けて、リーガロイヤルホテルとして持っておくべきワインをコレクションしているのも、私たちの誇りです。私は、貴重なワインを適正な価格でひとりでも多くの方に飲んでいただける機会を増やしたいんです。

1993年 モエ・エ・シャンドン社
ゲストハウス シェフソムリエと共に
ホテルロビーにてシャンパンピラミッドの装飾イベント

 ワインイベントも、不定期ではありますが当ホテルでは1978年から開催しているんですよ。知られざるワインをお伝えする場や、人気ワインを大勢の方にシェアしていただける場として大切にしています。ワインイベントであのロマネ・コンティをグラス8,000円で提供したこともあります。ロマネ・コンティ社のワインは、寝かせる分も考えて毎年100本近くストックしています。

 今、地下のワインセラーには8,000本ほどのワインが眠っています。当初はほぼフランス産がメインでしたが、2000年を過ぎたあたりからは、フランスにこだわる時代は終わりました。チリやニュージーランド、アメリカやオーストラリアなどにも視野を広げています。日本ワインのレベルも、年々向上していますよね。もちろんメインはフランスワインではありますが、旬のワインに対する知識を日々アップデートすることで時代遅れにならないサービスを心がけています。

 近年は料理に合わせちょっとずつ色々飲める“ワインペアリング”が定番化していますが、私が薦めたいのが、‟ワインフライト”。アメリカのレストランで知ったサービスですが、その都度3~4種類ほどのワインを料理とともにサーヴし、お客様ご自身でペアリングを楽しんでいただくスタイル。これはええなぁ、と思うんです。ペアリングよりも、よりお客様ご自身で自分好みのワインを探すことができる、それを我々ソムリエがサポートするスタイル。

 今、それを取り入れようとしています。お客さまファーストの目線を大切にしながら、独自のもてなしを追求する。それがリーガロイヤルホテルのスタイルですから。

リーガロイヤルホテル マスターソムリエ 岡 昌治(おか まさはる)

1953年大阪生まれ。19723月、株式会社新大阪ホテル(現・株式会社ロイヤルホテル)入社。数々のワインコンクールで受賞経験を持つ、日本ワイン界を代表するソムリエ。チャーミングな笑顔とユーモアに満ちた気取らないトークにファンが多い。2003 年にフランスの食やワインの普及への貢献が認められ、「フランス共和国 農事功労章 シュヴァリエ」を、2011 年には黄綬褒章を受章。日本ソムリエ協会で約6年間の会長職を経た後、2016年より名誉会長に就任している。

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