GOURMET

ロイヤルに息づく本場仕込みのフランス料理(総料理長 太田 昌利)

美味探訪 Vol.1

長年にわたり‟食のロイヤル”たらしめるのは、本場フランスの三ツ星レストランや一流ホテルでの、かけがえのない経験。口福のひと皿に秘められたシェフの想いをお届けします。

「チュルボのポッシェ クルミ風味のピストー添え」 総料理長太田が「ジョルジュ・ブラン」で学んだ名物料理のひとつ。チュルボの深い旨みに、バジルの青い香りとクルミのコクが見事なハーモニーを奏でる。円に散らした薄緑色の液体は、ナッティーな芳香とハチミツのようなエレガントな甘みが特徴の黄ワインにピスタチオを合わせたエマルジョン(乳化ソース)。

肌で感じた一流フレンチの空気感

本場の味を重んじるリーガロイヤルホテルでは、幹部候補生に向けた海外研修制度を1976年より続けています。半年間ヨーロッパで本場の味を学べる貴重なチャンスをもらえるのは、年に1名~2名だけという狭き門。私は1998年に、フランスの三ツ星レストラン「ジョルジュ・ブラン」とスイス「ホテル ボーリバージュ」に行かせていただきました。

「ジョルジュ・ブラン」は、現在も40年以上三ツ星を取り続けているトップレストラン。デシャップ前(料理を提供する場所)のポジションに配属された私は、幸運なことに、当時のシェフの仕事を間近で拝見することができました。とにかく圧巻だったのが、百数十名分の調理を素早く正確にこなす、スタッフ達の見事な連携。完璧なひと皿を作るためには一人一人の責任感が重要であることを、身を持って学べましたね。

フランスで学んだ、伝統と革新の精神

ブレス鶏のクリーム煮やフォワグラのコンフィなど、「ジョルジュ・ブラン」で学んだ料理は大切な財産。今も鮮明に記憶しています。今回お作りしたチュルボのポッシェも、その中のひとつです。チュルボは別名イシビラメといい、肉を思わせる弾力が魅力的なフランスの高級魚。下味を入れてから70℃で5分ほど火入れして、しっとりと仕上げています。今でいう低温調理ですが、当時は最先端の技法で、大変衝撃を受けましたね。ソースはピストーと言って、バジルとニンニクを合わせたプロヴァンス地方伝統の味。1年ほど前から魚をスズキに替えて婚礼料理に時折お出ししていますが、大変好評です。25年経っても色褪せない洗練された味わいと完成度に、名店の風格を感じています。

私と異なる時期に「ジョルジュ・ブラン」で研修したシェフと話をして気付いたのですが、同じ料理でもレシピが違っていたことも影響を受けました。油脂たっぷりで重厚だったり、オリーブ油で軽やかにしていたり、時代に合わせてさりげなく味を変えているんです。

伝統をただ継ぐのではなく、柔軟に変化させることで、後世に繋げていく。この精神は「レストラン シャンボール」で最も大切にしている部分です。現在10代目シェフを務めている田中貴典も、フランスで研鑽を積んだひとりです。伝統と革新を重んじる「レストラン シャンボール」の‟今の味”を、ぜひお愉しみください。

フランス三ツ星レストラン「ジョルジュ・ブラン」の厨房にて

同左レストランのパティシエメンバーと

リーガロイヤルホテルグループ統括総料理長 太田 昌利
(おおた まさとし)

1982 年、株式会社ロイヤルホテル入社。宴会調理部や「レストラン ガーデン」に配属後、フランスの三ツ星レ
ストラン「ジョルジュ・ブラン」とスイス「ホテル ボーリバージュ」にて海外研修を行う。帰国後は、グランメゾン「レストラン シャンボール」にて腕を振るう。2007 年「レストラン シャンボール」シェフに就任。2013 年には歴代最年少で リーガロイヤルホテル総料理長に就任する。緻密な料理理論に裏打ちされた発想、素材の熟知、召しあがる方への見えない心遣いなど「美味しいものを創りたい」という想いが、ホテルの食をさらに進化させている。2017 年、フランス共和国 農事功労章 シュヴァリエ受賞。

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