ART

光源氏の恋模様を映す王朝絵巻の世界へ

-「源氏物語絵巻」―

ROYAL GALLERY ロイヤルギャラリー

六曲一双屏風「源氏物語絵巻」は右上から順に「桐壺きりつぼ」「胡蝶こちょう」「さか」「宿木やどりぎ」「若紫わかむらさき」「あおい」「初音はつね」「空蝉うつせみ」「花散里はなちるさと」「紅葉賀もみじが」「澪標みおつくし」「絵合えあわせ」 と物語ごとの情景が瑞々しく展開していきます。

 リーガロイヤルホテルのメインラウンジは、紫雲のシャンデリアや金蒔絵の柱、曲水の宴をイメージした清らかな小川など日本の伝統美に彩られています。気品と華やぎに満ちた空間を飾るもう一つの美、それが「源氏物語絵巻」です。

 「源氏物語絵巻」とは、紫式部が著した『源氏物語』が完成した後、一流画家や書道家たちによって絵画化された絵巻物のことです。メインラウンジに飾られている絵巻は、江戸時代中期の土佐派の画家によるもので、華麗な六曲一双の屏風には金地に極彩色で、源氏物語五十四帖のうち十二帖が描かれています。

 細くひとすじに描かれた目、くの字形の鼻が特徴の「引目鉤鼻ひきめかぎばな」の表現は、顔貌かおかたちの個性を出さないことで見る人の想像力をよりかき立てると言われています。また、室内を斜め上方から覗くような視点で柱や梁、襖などだけで表現する「吹抜ふきぬけ屋台やたい」の技法は、人物をくっきりと際立たせる効果があります。さらに十二単のかさねの優美な文様や色彩調度品や御簾みすなどの精緻な描写も作品の見どころです。
それでは、『源氏物語』の名場面がどのように描かれているのか、見ていきましょう。

若紫わかむらさき
愛しい人の面影を映す紫の上との運命の出会い

 亡き母、桐壺きりつぼの更衣こういに瓜二つという、父、桐壺きりつぼていの妃、藤壺ふじつぼ女御にょうごへの思慕に悩む光源氏。ある時、病を得て、北山の寺の僧都そうずのところに祈祷を受けに行ったところ、可愛がっていた雀を侍女の童が逃してしまったことを怒る愛らしい姫を偶然見かけます。驚いたことにこの姫は愛する女人、藤壺に面差しがそっくりで、はっと胸をつかれる源氏。ここから源氏と幼き姫との離れがたき運命が動いていくのです。のどかな北山の風景の中で、のちに最愛の妻となる若き紫の上との出会いの瞬間が瑞々しく描かれています。

空蝉うつせみ
薄衣を残して消えた女人、空蝉への儚い恋

 空蝉という女人に思いを寄せた源氏ですが、なかなか思いが遂げられず、彼女の弟のぎみに姉のもとへ手引きをするように頼みます。空蝉と継娘ままむすめ軒端のきばおぎが碁を楽しんだその夜、二人が寝室で休んでいると人の気配が…。空蝉は薄衣うすごろもだけを残して隠れてしまい、源氏は過って軒端の萩と一夜を過ごします。そして翌朝、空蝉が残した薄衣を持ち帰るのでした。画面には碁を打つ二人の女人と、その様子を覗いている源氏、手引きをする小君の姿が描かれています。

紅葉賀もみじが
藤壺への狂おしいまでの想いを舞に託して

 桐壺帝の五十賀ごじゅうが(五十歳の祝賀)が十月の紅葉の頃に朱雀院で行われ、源氏と、若き頃からのライバル、とうの中将ちゅうじょう青海波せいがいはを舞うことになりました。源氏の高貴な姿と息を呑むほど美麗な舞に、人々は深く心打たれます。しかし、源氏の胸の内は御簾の内にいる最愛の女人、密通により懐妊した藤壺の存在でいっぱいでした。源氏と藤壺の狂おしくも許されぬ恋を心理的な背景に、華やかな中にももの哀しさが募る場面となっています。

澪標みおつくし
えにし深きゆかしき女人、明石の君との邂逅

 須磨での隠遁生活から京に戻りない大臣だいじんとなった源氏は、秋の一日、行列をととのえて住吉詣すみよしもうでに出かけます。そこへ偶然、須磨から京を目指してやってきた明石の君の一行が船で通りかかりました。源氏との間に姫までもうけた明石の君ですが、あまりにも立派な様子に気後れし、声をかけることもなくそっと離れていきます。絵巻には源氏の一行と海上の明石の君の船、そして松の緑の中に見え隠れする住吉大社の鳥居や太鼓橋が描かれています。

 「源氏物語絵巻」に描かれる『源氏物語』の各帖のあらすじをお知りになりたい方は、ぜひ、「宇治市源氏物語ミュージアム」へ。『源氏物語』の魅力を展示物や映像で体感することができます(「宇治市源氏物語ミュージアム」は「TRAVEL」の「『源氏物語』ゆかりの地、京都・宇治を訪ねる」の中でご紹介しています)。

(文・郡 麻江)

リーガロイヤルホテル(大阪)
メインラウンジ
TEL 06-6441-0956(直通)
大阪市北区中之島 5-3-68

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