名匠たちの思い、熟練の技と時間が生む美しい椅子の光沢
※当記事は『The ROYAL』2010年2・3月号でご紹介した内容です。
The ROYAL SIGN ザ・ロイヤルサイン
-リーガロイヤルホテルのたから探し-
「ホテルの中にひとつの部屋をつくる」というリーチバーの基本コンセプトは、まず日本民藝の先駆者・柳宗悦氏と当時の社長、山本為三郎により練り上げられた。山本の日本の「民藝」に対する深い理解と愛情が、英国人陶芸家のバーナード・リーチの心を動かし、さらに河井寛次郎や濱田庄司、染色家の芹沢銈介、版画家の棟方志功といった柳宗悦の遺志を受け継いだ民藝の同人の協力も引き出す原動力になった。
という経緯を知らずとも、伝統的なウィンザースタイルのこの椅子に腰を下ろすだけで、そこに民藝の名匠たちの息吹を感じることができるだろう。
独特の緩やかな曲線は、木材を蒸煮し金具で固定しながら手作業で木を曲げていく「曲木」という技術により生まれる。明治末創業の秋田県の木工工房で熟練した職人によりひとつひとつ手作りされた椅子は、リーチバーの開店当時から修復や磨きを経て、守り受け継がれてきた。
民藝の匠の技が結晶したたぐいまれな空間、そしてかけがえのない時間に磨き上げられた椅子は、いつ訪れても茶褐色の美しい光沢を放っている。
(文/江 弘毅 写真/ハリー中西)