「境界」により、その表情を変える山楽の桜と紅葉
※当記事は冊子『The ROYAL』2010年4・5月号でご紹介した内容です。
The ROYAL SIGN ザ・ロイヤルサイン
-リーガロイヤルホテルのたから探し-
中世や近世の貿易において、外国の貴族たちがとりわけ所望したものが、日本の屏風絵だそうだ。そのため、名だたる絵師の作品や史料としても貴重な屏風絵が、海外の城などで発見されることは珍しくない。しかし、そうした場合のほとんどは、本来の使用方法ではなく、装飾画として、例えば壁に埋め込まれている場合などが多い。
ということを、「山楽の間」の壁面を艶やかに彩る西陣綴織を目にして思い出した。
桃山時代画壇の異才、狩野山楽の屏風絵の中でも、根津美術館が所蔵する門外不出の「吉野龍田図」を再現した西陣綴織。およそ240坪の広さを誇る「山楽の間」ゆえ、部屋の端からはまるで壁面そのものが絵のように感じられるが、近づくとそれが綴織物で、屏風のように折れて広がっていることが見て取れる。
写真奥が紅葉、手前が桜。その間に仕切りをすることで「山楽の間」は二間ともなる。境界を挟むと、そこにはまるで異なる季節と風情が生まれ、優美さだけではなく、日本古来の屏風絵の実用美の形もそこに見ることができる。
(文/江 弘毅 写真/ハリー中西)