「ホテルの中にひとつの部屋をつくる」というリーチバーの基本コンセプトは、まず日本民藝の先駆者・柳(やなぎ)宗悦(そうえつ)氏と当時の社長、山本為三郎により練り上げられた。山本の日本の「民藝」に対する深い理解と愛情が、英国人陶芸家のバーナード・リーチの心を動かし、さらに河井(かわい)寛(かん)次郎(じろう)や濱(はま)田(だ)庄司(しょうじ)、染色家の芹沢銈(せりざわけい)介(すけ)、版画家の棟方(むなかた)志(し)功(こう)といった柳宗悦の遺志を受け継いだ民藝の同人の協力も引き出す原動力になった。
という経緯を知らずとも、伝統的なウィンザースタイルのこの椅子に腰を下ろすだけで、そこに民藝の名匠たちの息吹を感じることができるだろう。
独特の緩やかな曲線は、木材を蒸煮し金具で固定しながら手作業で木を曲げていく「曲木」という技術により生まれる。明治末創業の秋田県の木工工房で熟練した職人によりひとつひとつ手作りされた椅子は、リーチバーの開店当時から修復や磨きを経て、守り受け継がれてきた。
民藝の匠の技が結晶したたぐいまれな空間、そしてかけがえのない時間に磨き上げられた椅子は、いつ訪れても茶褐色の美しい光沢を放っている。
(文/江 弘毅 写真/ハリー中西)
リーガロイヤルホテル大阪
ヴィニェット コレクション
リーチバー
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