GOURMET

“食のロイヤル”の名に恥じぬよう、伝統を継承しつつ新しい物語を紡いでいきたい

美味探訪  Vol.6

リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション 総料理長 兼 リーガロイヤルホテルズ 統括総料理長 豊田 光浩とよだ みつひろ

 「美味探訪」では感動と幸福が広がる格別のひと皿の舞台裏をご案内いたします。第6回は、2026年春、リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション総料理長 兼 リーガロイヤルホテルズ統括総料理長に就任した豊田 光浩とよだ みつひろをご紹介。フランス留学後、リーガロイヤルホテル大阪のレストラン料理長や、小倉、広島の総料理長などを歴任。各地で得たさまざまな経験やリーガロイヤルホテルのフレンチの魅力、今後、挑戦したいことなどについてお話します。

貴重な体験となったフランスでの研修

フランスでの研修を終えて帰国直前に撮った記念写真(2列目中央)。この中には現在、星付きのレストランでシェフを務める者もいる。

 ロイヤルホテルには海外研修制度があり、私がロイヤルホテルを就職先に選んだ理由のひとつです。念願叶って、入社12年目でフランス研修に行くことができました。事前に先輩方から情報を集めて現地に行ったのですが、三ツ星レストランで働く人たちの仕事に対する情熱には改めて圧倒されました。自分自身も研修準備を進めながら高いモチベーションで仕事をしてきたつもりでしたが、それをはるかに上回り、オンとオフとの切り替えが上手いことにも驚かされました。

 仕込みの時などはBGMをかけてリラックスできる雰囲気なのですが、いざ仕事が始まると、凛と張り詰めたような空気になる。本当に素晴らしい環境の中で仕事をさせていただくことができた1年でした。

 当時、私は31歳でしたが、共に働いていた22~24歳ぐらいのスタッフの多くが現在では星付きレストランのシェフをされています。スタッフの中には親しくなった友達もでき、ドン・ペリニョンで有名なエペルネとランスへ向かう道中にある森によく連れて行ってもらい、一緒にキノコ狩りをしました。

 セップ茸やトランペット茸、モリーユ茸などを採るのですが、大家さんにお裾分けすると、とても喜ばれ「パスタにしたよ」などと言ってくれて交流も生まれました。天然キノコの見極めは素人には難しいのですが、彼がとても詳しく細やかにサポートしてくれて、森で迷った時の戻り方なども教えてもらいました(笑)。

アルザス地方のストラスブールにある二ツ星レストランにて。

 語学に関しては、海外研修に早く行きたかったので、入社直後の20歳から社外の語学学校に通っていました。23歳の時、社内のフランス語研修にも参加できるようになり、3年間で小級・中級・上級の試験に合格。フランスに行ける権利を獲得できました。

 現地で通訳はついてくれませんから、自分で話してアピールしなければ何も始まりません。10~12月はジビエを扱いたいからヴィアンド(肉料理)の担当にさせてほしいとか、次はパティシエに付きたい、その次はガルド・マンジェ(冷製オードブルや冷たいデザート)、というように言葉で伝えないと仕事は与えてもらえません。

 日本人は真面目で手先が器用ですが、コミュニケーションを取るのは苦手な人も少なくありません。でも1年はあっと言う間に過ぎます。マカロンひとつ作らせてもらうのにも何度も頼み込んだこともありました。今となっては良い思い出です。

丹精込められた食材をどう伝えるか

 帰国後、リーガロイヤルホテル大阪、次は小倉、そして広島に配属となり、いろんな土地を経験させていただき、それぞれの土地柄を知ることができました。例えば、宴席では、小倉と広島は着席ビュッフェが一般的で、地元産の食材を求められることが多かったと思います。一方、大阪は立食ビュッフェが多く、宴席の趣旨に応じたメニューが求められ、国内外から良い物を選りすぐってほしいというニーズが高かったと記憶しています。

 そのため、九州から北関東辺りにかけて食材探しによく出かけました。茨城では名産のレンコンを掃除機のような機械で吸い込んで収穫することや、大阪の堺で味わったもぎたての水茄子がフルーツみたいだったこと、オクラをもいだ時に細かい毛が顔についてしまい皮膚がただれたように痒くなったこと、トマトは枝が触れただけでも服が汚れることなど、現地を訪ねたからこそできた貴重な体験でした。

 かつてフランスの森でキノコを採った時もそうでしたが、産地を知ることは食材の味を最大限に生かしてお客様に伝えるための第一歩。また、生産者の方々が丹精込めて作られた食材でお客様に満足していただくためにはどうすれば良いかなど、モチベーションにも繋がります。

見た目も華やかな冷製オードブル「河内鴨の真空調理 フランボワーズ風味の甘酸っぱい赤玉ねぎとクリーミーな根セロリ添え」。ポイントは火入れ。「生でも食べられるほどの鮮度の良さが特徴の津村さんの河内鴨のフレッシュ感を残しつつ、実際はしっかりと火が通っている、そのギリギリのところを狙っています」と豊田総料理長。

 今回、私の「思い出のひと皿」ということで、主役に選んだのは河内鴨です。まさに、私はこの食材の特別感をどうすれば伝えられるかを試行錯誤し、今までに多くの河内鴨料理を作ってきました。その最新作をご紹介します。

 この河内鴨を育てておられるのは津村 大介つむら だいすけさん《河内鴨ツムラ本店 (専務)》。私が以前、リーガロイヤルホテル大阪にあった「ダイニング&カフェ ナチュラルガーデン」のシェフに就任した36歳の時からお付き合いいただいている生産者の方です。津村さんは大阪府松原市で1870年から続く河内鴨の生産・販売店の6代目。豊臣秀吉の大好物だった鴨。太閤の来阪時にふるまうため、湿地帯だった河内で育成が始まったと言われています。

 津村さんは河内鴨の孵化から飼育、加工、販売までを一貫して行われていて、与える飼料を自身で味見されるほど。抗生物質も一切使っておりません。ムネ身を厚く美味しくするために、鶏舎に大型の扇風機を置き、意図的に羽を動かせるといった工夫もされています。

 それだけ愛情を注ぎ、手を掛けて育てた河内鴨ですから、使える飲食店は限られています。通販も行っていませんし、配送も不可。店舗に買いに行くのが基本です。

 鴨肉は昆布塩水につけて、昆布の旨みと塩味を染み込ませます。その後、脱水してから低温調理。皮目を軽く炙って香ばしさを出し、スライスします。そこにフランボワーズの酢を使う、イタリアンではアグロドルチェと呼ばれる甘酸っぱい味付けをした赤玉ねぎをトッピングします。ビーツと根セロリとジャガイモのピュレを添え、仕上げにはエディブルフラワー、レッドソレル、エキストラバージンオリーブ油のパウダーを散らします。

食のロイヤルというカラーを大事にしつつ

 当ホテルが“食のロイヤル”と呼ばれるのは、フランス研修のような経験を持つ料理人が何十人もいることも理由のひとつです。長年にわたって蓄積されたノウハウは本当にすごいもので、そのように貴重な経験を持ち帰った人たちが各拠点にリーダーとして在籍。互いにモチベーションを高め合いながら仕事ができるホテルはなかなかないと思います。

 ただ、そこに胡坐をかいてはいけないし、“食のロイヤル”という言葉をご存じない若い世代の方たちに向けてもアピールして、伝統を継承していきたいと思います。

 例えば「レストラン シャンボール」では、現在の10代目シェフ 田中 貴典たなか たかのりの料理はもちろん、代々受け継がれている料理を提供したり、過去のシェフの料理をアレンジしてお出しすることもあります。このような形で伝統を継承していくことも大事で、それを続ける努力も忘れてはいけないと思っています。

 世の中は進化しています。それはホテル業界も同じ。ただそれぞれのホテルには“色”があると思うので、他社のマネをするのではなく本質や方向性に筋を通していかねばなりません。伝統は同じことを漫然と続けていては守れないので、昔のストーリーを語る一方、新しい物語もどんどん紡いでいくつもりです。

イベント情報【一夜限りの饗宴】
「新総料理長 豊田 光浩 就任記念ディナー シャンボール歴代シェフによる継承の物語」

53年の歴史を誇る「レストラン シャンボール」。その系譜を受け継ぐ歴代シェフが一堂に会し、伝統と革新が響き合う特別な一夜をお届けいたします。

2026年8月6日(木)18:30~(受付18:00~)
料金:50,000円(料理、飲み物、税金・サービス料含む)

リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション 総料理長 兼 リーガロイヤルホテルズ 統括総料理長 

豊田 光浩(とよだ みつひろ)

1986年、 株式会社ロイヤルホテル入社 。1999年2月~12月まで、フランスの三ツ星レストランにて海外研修を行う。帰国後は、リーガロイヤルホテル大阪のレストラン料理長や小倉、広島の総料理長を歴任。2026年4月、リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション総料理長 兼 リーガロイヤルホテルズ統括総料理長に就任。主な受賞歴は、 国際料理コンクール日本代表選考会・決勝進出(入賞3回/エスコフィエ・フランス料理コンクール、ピエール・テタンジェ国際料理コンクール等)、大阪府主催 料理コンクール金賞、 リーガロイヤルホテルズ料理コンテスト金賞(2回)。

リーガロイヤルホテル大阪

ヴィニェット コレクション

TEL 06-6448-1121

大阪市北区中之島5-3-68

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