弛まぬ挑戦が未来へのバトンに「HOSOO」
ロイヤルなつくり手 Vol.5
料理の食材や、客室のアメニティなど、ホテルが厳選した逸品はどれもこだわりの「つくり手」によるもの。ここでは、「つくり手」の豊かな想いをご紹介し、「ホテル」「つくり手」「お客様」と繋ぎます。
西陣織を世界に向けて発信
リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクションは、2025年に創業90周年を迎えた節目として、「伝統美と水の融合」をコンセプトに大規模なリニューアルを実施しました。1階レセプション正面には、中之島の発展に大きな影響をもたらした「水の力や躍動感」をモチーフにした「HOSOO」オリジナルの西陣織が空間を彩っています。
「HOSOO」は1688年に京都西陣で創業。以来、長きにわたって貴族や武士階級、裕福な町人の支持を受けて育まれてきた先染の織物である西陣織の織屋としての歴史を重ねています。
西陣織は完成までに20以上もの工程が必要。各工程をそれぞれ一人の職人が担当する高度な分業制を用いることで圧倒的な美を追求し、類稀なる職人技を継承しています。
1923年には、9代目当主・細尾 徳次郎が帯・きものの卸売業を開始。問屋として全国の産地を巡り、日本に受け継がれる染織のすばらしさ、真摯にものづくりを続ける職人たちの思いを人々に届ける、プロデューサー的な役割も果たすようになりました。
近年は、織屋と問屋の両輪で事業を営むなか、世界的ハイブランドとコラボレーションするなど、グローバルに展開。今春には初の本格的メンズウェアライン「HOSOO MEN」を発表、養蚕業の復活に向けたプロジェクト、アーティストとの協業なども活発に行っている12代目、細尾 真孝さんにお話を伺いました。
32cmを150cmに広げる挑戦とは
2006年頃から、先代である私の父、細尾 真生が海外への挑戦を始めました。未来にきもの文化のバトンをつなぐために新しい挑戦をしなければならないと考えてのことでしたが、当初は思うような結果が出ませんでした。
流れが変わったのは、2008年12月にパリのルーブル美術館で、日仏交流150周年記念事業として開催された「感性 Kansei―Japan Design Exhibition―」。主催者である経済産業省の依頼を受けて、当社からは帯を2本出展しましたが、ビジネスにつながるとは思ってもいませんでした。ところがこれが評判を呼び、翌年にはニューヨークでも開催。直後に、建築家からのオーダーが届きました。
帯の技術を使ったテキスタイルをディオールの店舗の壁面に使いたいとのオーダーを受けて気づかされたのは、求められているのは必ずしも伝統的な和柄ではないということでした。それまで我々は32cm幅でできるプロダクト、クッションカバーなどを展開していたのですが、それではとても限定的なマーケットでしかない。
受けたオーダーが、溶けた金属のような質感のデザインであったことから、得意分野であると思っていた和柄にこだわることがむしろ足かせになっていたことに気づかされたのです。けれども西陣の織機で作れるのは32cm幅の織物。一方、世界のテキスタイルの標準幅は150cmと、約5倍の差がありました。であるならば、織機を自分たちで作るしかないと考えて開発に乗り出しました。
織り幅を32cmから150cmにする難易度は5倍どころか5乗以上でした。そもそも32cmは長年かかって織り出されたヒューマンスケール。細い糸を何本か合わせて太さを調節したり、糸に特別な撚りをかけたり、さまざまな素材の糸を複雑な構造で織り込んでいく西陣織ならではの作業を150cmの幅で実現させようとするとヒューマンスケールを越えてしまいます。
単にオートメーションロボット化するのではなく、クラフトマンシップを反映させながら150cmに拡張させるのが私たちの挑戦。あくまで未来の工芸を作るという目的のもと、たくさんの課題を一つ一つクリアして、2010年に織機の開発に成功。これが大きな転換点になりました。
「細尾」も「HOSOO」もベースは同じ
現在、国内における和装事業は「細尾」、テキスタイルを中心とした事業は「HOSOO」と表記を分けてはいますが、ベースにあるのは織物やきものの文化を未来に展開させていきたいとの思い。グローバルな展開をしていくなかで、マーケットも広げていきたいと考えていますが、それは西陣という歴史的産地のバックボーンがあってこそ。
私たちが新しい挑戦をすることで西陣全体に良い波及効果が生まれ、「細尾ができるなら自分たちもやってみよう」という風に切磋琢磨しながら業界全体が底上げされていく状況を作りたい。私たちはそのためのファーストペンギン。それだけの可能性が西陣にも伝統工芸文化にもあると信じていますし、証明していきたいと思っています。
ただ、よく聞かれるのですが、細尾家には「ファーストペンギンであれ」といった家訓はありません。かつての私は家業を継ぐように言われたこともなかったですし、その気もなく、将来はクリエイティブな音楽の道に進みたいと思っていました。それは父も同じだったようで、海外で仕事がしたいと商社に就職。私も幼少期は父の赴任先であるミラノで暮らしていました。そんな父が家業を継ぎ、海外への挑戦を始めたと知った時、やり方次第で伝統産業はとてもクリエイティブな産業になると感じました。それが音楽活動をしていた東京から京都に戻るきっかけになりました。
西陣織を多くの人に
元々、西陣は貴族や武士階級からのオーダーメイド、お誂えで勝負してきた産地です。ここ百年は帯に特化していたかもしれませんが、本来は最高の素材を作るのが仕事。伝統工芸文化は誰かが挑戦してヒントをつかみ、さらに未来にバトンを渡していくことでつながっていく。伝統を守るためには弛まぬ挑戦が必須です。
その意味からも、リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクションのレセプションカウンターの屏風作成は挑戦的な取り組みでした。大切にしたのは「伝統美と水の融合」というリニューアル時のキーコンセプトと、お客様をお迎えする場を象徴する日本最大級の大緞通「万葉の錦」との共存です。
ホテルという近代建築の洗練された空間全体のバランスを考慮した結果、現代的な思考を持つ我々のテキスタイルが入ることで、伝統的な絨毯が現代に繋がっていくという構図が素敵ではないかと考えました。絨毯自体が工芸品としてとらえられていますし、良き物を長く使い続けていくことは我々にとっても非常に重要なテーマ。絨毯の工芸的な意匠の記憶を大切にしつつ、モダンな色柄や雰囲気のある対比的な要素を重ねることができたと思います。
屏風は「ふくらし織り」と呼ばれる、レイヤー構造を生む伝統的技法を使うことで立体的に見える効果を出し、まるで水が流れているかのような躍動感を表現。箔と錦糸を組み合わせることでグラデーションをつけ、見る角度や光の反射で豊かな表情が出るように考えました。
ホテルは国内外から大勢の方がいらっしゃるところですから、西陣織を見ていただける好機です。今回のプロジェクトが西陣織を知っていただける機会になるかもしれませんし、ホテルで屏風を見たお子様がいつか職人として我々の仲間になってくださるかもしれない。そう考えると可能性に満ちていますし、美しいものには人の心を豊かにする力もある。きものは着物、いわゆる和服だけでなく着るものすべて。人が着れば着物になるし、内装が着ればインテリアになります。これからも美しい“きもの”の物語を紡いでいきたいと思います。
株式会社 HOSOO
https://www.hosoo.co.jp/
文/小林 明子
リーガロイヤルホテル大阪
ヴィニェット コレクション
TEL 06-6448-1121
大阪市北区中之島5-3-68



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