大阪・中之島~天王寺 “生きた建築”の魅力に触れる
※当記事は冊子『The ROYAL』2018年秋号でご紹介した内容です。商品やサービスの内容・料金は変更になっている場合があります。
リーガロイヤルホテル(大阪)からはじまる旅
“生きた建築”、それは、大大阪時代のレトロ建築から現代の高層ビルまで、歴史や文化、市民の暮らしぶりといった都市の営みの証しとして、さまざまな形で変化し、発展しながら、今もその魅力を物語る建築のことです。
大阪では、これらが点在する都市をひとつの巨大な建築博物館“生きた建築ミュージアム”として発信しており、毎年秋には一斉公開イベント、「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」(通称「イケフェス大阪」)が開催されています。
今回は、建築家の髙岡伸一先生に、その魅力を案内していただきます。
(写真/西岡 潔)
各時代の名建築を訪ねる [中之島]
近年、大阪では「生きた建築」という聞き慣れない言葉をキーワードに、街の建築への関心が高まっている。時間を強制的に止めてしまう文化財としての建築ではなく、新旧を問わず、都市を生き生きと脈動させている、建築の今のありように目を向けようとする視点、そこに連綿と積み重ねられてきた人々の工夫や時代の変化を見いだしていこうというのが、「生きた建築」のコンセプトだ。
何よりリーガロイヤルホテル(大阪)自体が、佳き昭和の雰囲気を今も色濃く漂わせる、大阪にはなくてはならない「生きた建築」である。とりわけ1階に設けられた「リーチバー」は、日本の民芸運動に大きな影響を与えたイギリス人陶芸家、バ―ナード・リーチの着想に基づいた、工芸品そのもののようなインテリアで、著名な作家の作品が自然に飾られている。そこは大阪の文化人や財界人がグラスを傾けてきた歴史的空間であると同時に、誰もが気軽に普段使いできる「生きた建築」だ。
ホテルを出て東に歩けば、堂島川に面した茶褐色のレンガの重厚な建築が見えてくる。この「ダイビル本館」は、2013年に建て替えられた超高層ビルだが、かつてこの場所に建っていた、1925年竣工の近代建築の外観を低層部に復元したものだ。何より驚くのは、以前のダイビルに貼られていたレンガの一部を再利用し、新しい外壁に貼り直していることで、新築なのに歴史の重みを感じさせる。
さらに東へ行けば、外壁を保存した明治時代の日本銀行大阪支店、御堂筋を挟んで大阪市役所、同じく明治時代の「大阪府立中之島図書館」と大正時代の「大阪市中央公会堂」が並ぶ、大阪随一の近代建築エリアに至る。中之島図書館は一世紀を過ぎて今も現役の公共図書館として、公会堂もその豪華なインテリアに対して非常にコストパフォーマンスの高い貸し集会室として、多くの市民に活発に利用されている。いずれも近年、民間企業が運営に参画し、センスのあるカフェやライブラリーショップ的な店舗が入って、新しい人の流れを生み出している。
東洋陶磁美術館を越えて堺筋まで歩いたら、難波橋を南へ。土佐堀川沿いに建つ大正元年の「北浜長屋」が、昨年に改修されて新しくオープンした。空襲を免れて生き延びた都心の貴重な木造建築は、和洋折衷のハイカラなデザインが特徴で、大きく開けられた窓際の席からは、水都大阪の美しい景観を眺めることができる。
【DATA】
リーチバー
大阪市北区中之島5-3-68 リーガロイヤルホテル(大阪) 1階
TEL 06-6441-0983(直通)
11:00~ 24:00(ラストオーダー23:45)
ダイビル本館
大阪市北区中之島3-6-32
大阪市中央公会堂
大阪市北区中之島1-1-27
TEL 06-6208-2002
9:30~21:30
第4火曜休(祝日の場合は翌平日)
北浜長屋
大阪市中央区北浜1-1-22
※営業時間や休日はそれぞれの店舗にご確認ください。
大阪府立中之島図書館
大阪市北区中之島1-2-10
TEL 06-6203-0474(代)
9:00~20:00(土曜は~17:00)
日曜・祝日、3・6・10月の第2木曜休
未来都市の実験場[天王寺]
大阪はキタとミナミの2極構造で捉えられがちだが、環状線の南端に位置する天王寺も話題には事欠かない。近鉄のターミナルである大阪阿部野橋駅を建て替え、2014年に日本一の高さ約300mを誇る「あべのハルカス」が竣工し、迫力の展望台は今も多くの人で賑わっている。セットバックしながら外壁の角度が微妙にずれる外観は、ハルカスの立地する上町台地の地形に基づく街区と、大阪城に由来する街区のズレを共に継承して、大阪という都市の立体化を表現しているという。
ハルカスの足元に広がる天王寺公園は、2015年に民間による管理・運営が導入され、「てんしば」としてリニューアルされた。全面的に芝生が施され、公共の敷地にカフェやレストラン、物販店舗を整備した先進的な取り組みは、全国的にも注目を集めている。
天王寺公園の一角に建つ「大阪市立美術館」は、1936年に開館した長い両翼をもつ左右対称の和洋折衷の近代建築。中之島に建設される大阪新美術館の話題に隠れてしまっているが、こちらもこれから民間活力を導入して、眼前に広がる住友家の名庭「慶沢園」や、近年再評価の著しい天王寺動物園などと連動した、新たな美術館のあり方が示されるはずで、今後も楽しみだ。
【DATA】
あべのハルカス
大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43
[展望台お問い合わせ] TEL 06-6621-0300
(ハルカス300インフォメーション)
9:00~17:30
てんしば
大阪市天王寺区茶臼山町
TEL 06-6773-0860
(てんしば管理事務所/9:00~17:00)
大阪市立美術館
大阪市天王寺区茶臼山町1-82
TEL 06-6771-4874
9:30~17:00(入館は16:30まで)
月曜(祝日の場合は翌平日)休
観覧料:一般¥300、高校・大学生¥200 中学生以下無料
イケフェス大阪とは
本文で紹介した建築をはじめ、大阪市内を中心に100以上の建築が一斉に無料公開される、日本最大級の建築イベント。9月中旬に公式ガイドブック(¥500)が書店やアマゾンで販売される。