LIFE

幸せを呼ぶ文様「雲母唐長」祈りの道

ロイヤルなつくり手 vol.4

 料理の食材や、客室のアメニティなど、ホテルが厳選した逸品はどれもこだわりの「つくり手」によるもの。ここでは、「つくり手」の豊かな想いをご紹介し、「ホテル」「つくり手」「お客様」と繋ぎます。

400年以上続く、奇跡の唐紙屋

 唐長は1624年(寛永元年)に京都で創業。初代・長右衛門は御所を警衛する武士でしたが、その身分を捨てて唐紙師になりました。王朝文化復興として本阿弥光悦ほんあみこうえつ俵屋宗達たわらやそうたつ角倉素案すみのくらそあんが手がけた美しく豪華な書物「嵯峨本」にも関わったとされています。遣唐使により中国から伝来した唐紙は、平安時代は文字を記すための料紙りょうしでしたが、やがて木版手摺の装飾和紙に変化。鎌倉から室町時代には衝立や屏風、襖などの室内装飾に用いられるようになりました。江戸時代には、公家に武家、町人、茶人がこぞって唐紙を愛用する、いわば大流行が起きたのですが、生活様式の変化とともにブームは終わりを迎えます。

 江戸末期には京都に13軒あった唐紙屋は江戸時代以降、次々に廃業。東京などの唐紙屋も同時期に姿を消しました。文明開化で人々の暮らしが変わる中、唐紙の文化を守り、唯一続いた唐紙屋が唐長です。

 唐長が保有する板木はんぎは600枚以上。1788(天明8)年の大火で大半を焼失しましたが、その後に再版。貴重な板木は時に命がけで守られ、今も大切に受け継がれています。そんな“奇跡の唐紙屋”において、時代とともに使われなくなっていた唐紙師という呼び名を15年ほど前に復活させ、創業400周年を迎えた昨年に、約100年ぶりに名跡を襲名した第13代唐長の千田長右衛門さんにお話を伺いました。

目に見えないものを写し取る

2024年11月に、唐長の創業者である初代・長右衛門の名を襲名された千田長右衛門さん。

 板木から文様を写し取るには、ふるいと呼ぶ丸い盆状の道具を用います。篩に絵の具を乗せ、板木から和紙に手摺します。その時、バレンなどの道具は用いず、手のひらの感覚を頼りに優しくなでるように写しとります。

 これは代々受け継がれてきた手法ですが、僕が意識しているのは、色や文様だけでなく板木がまとっている先祖の想いや400年の歴史を写し取ること。文様には神さんが宿ると言われています。プリントや印刷などとは全く違う、目に見えない力を写し取るからこそ美が宿り、人の心を動かせると思っています。

和室を出て、アートの世界へ

「人や風景の記憶に宿るものが削ぎ落とされて作られたのが文様。繁栄や栄達を願う力に満ちているから、人を幸せにしてくれる」と話す長右衛門さん。

 ただ、和室が姿を消していく昨今の事情もあり、主力を和室の襖だけに据えていては我々の仕事は限定され、かつ減少するばかりになるとの危機感を20年ほど前から抱いてきました。ではどうすればと思った時、襖の枠を取り払い、現代美術として唐紙を愛でてもらうようになれば、世界の人にも愛してもらえる環境ができるのではと考えました。それが僕にとってはアートという道で、2008年頃から本格的に芸術活動を始めました。

 今でこそ父母も感謝してくれていますが、当時は周囲から馬鹿扱いされました(笑)。400年の伝統工芸としての歴史があり、長年にわたりご愛顧いただいているお客様もあるのにアートだなんて訳がわからんと。評価が変わったのは、美術館にコレクションされたり、俵屋宗達たわらやそうたつの絵の横に作品が納められたりしたことですかね。それまでの世の中に存在していなかったアートとしての唐紙を創るため、世の中を仕組みごと変えるぐらいの気概を持って、めげずに頑張りました。

 100年後の未来に向けた試みとして、100枚の新たな板木を加える「平成令和の百文様プロジェクト」も現在進めています。というのも、唐紙文化の衰退とともに彫師さんも途絶え、板木を彫る作業は昭和初期以降ストップしています。このままではやがて朽ちてしまい、100年後の人が困ることになってしまいます。

 平成には平成の、令和には令和の考え方や世の中の流れがあります。今の時代の人間の記憶や今ならではの文様を残しておかなければと行動に移しました。

 世の中には伝統と言われるものがたくさんあれど、単に継ぐだけなら誰でもできる。本物の継承とは、現代の空気を加えてハイブリッドして、さらに良くした状態で未来に種を残してこそだと僕は思っています。

幸せになれる客室

コンセプトルーム「金雲」は、「金とブルー」の配色をキーカラーとし、壁や天井の金色が光の当たり方で変わる特徴的な輝きを放ち、雲母唐長の文様とともに愉しめる。

 以前からお付き合いのあるリーガロイヤルホテル京都の50周年記念事業の一環で誕生した、「金雲きんうん」と「銀月ぎんげつ」は、文様に包まれた客室を作りたいとの思いが実現したコンセプトルーム。僕の中で唐紙は光の文化で、光といえば太陽と月。そこから着想して金雲と銀月をコーディネートしました。作品に当たる光も大事にしていて、全体に光を当てるのではなく、あえて陰影を作っています。夜はまた違う雰囲気に見えると思います。

ベッドボードの模様は「しふく刷り」による縁起の良い「天平大雲」。「しふく刷り」は、襲名前のトトアキヒコ時代に編み出した技法であることから「トトブルー」とも呼ばれる。

 ベッドボードの文様は、西洋の技法でスーラやゴッホが用いたことでも知られる点描と、俵屋宗達が得意とした“たらし込み”を複合させた、指で染める独自の技法“しふく刷り”で表現した「天平大雲てんぴょうおおぐも」と2羽の鶴。「天平大雲」は唐長を代表する縁起の良い文様で、雲は雨を呼ぶことから実りと豊穣を表します。寝ている間に鶴が幸せを連れて飛んでくるイメージです。

川島織物セルコンとのコラボラグの「角つなぎ」の文様は、雲母唐長×ACTUSのクッションなど、部屋の至る所に使われている。
「南蛮七宝」のベッドスローと今治謹製タオル
ノリタケコラボのカップは「天平大雲」の文様

 ラグは繋がりや繁栄を意味する「角つなぎ」、ベッドスローとカーテンには幸せが四方八方へと繋がる願いを表現した「南蛮七宝なんばんしっぽう」を用いました。タオル類やミラーはオリジナル、家具や照明は唐長セレクト。ポジティブなパワーに満ちた唐長の文様の世界観が体感できる唯一無二の空間になっています。

(文・小林 明子)

<リーガロイヤルホテル京都>

しあわせの文様につつまれる時間を

リーガロイヤルホテル京都で愉しむ「雲母唐長」

 

リーガロイヤルホテル京都では、雲母唐長の「光と文様に包まれるしあわせ」をテーマに、人々の祈りや願いが込められた物語を持つ美しい文様を客室の随所に用いた、金と銀の輝きが空間全体に広がるアートのようなお部屋をご用意しています。雲母唐長の世界をこころゆくまでご堪能ください。

雲母唐長コンセプトルーム 「金雲」「銀月」

リーガロイヤルホテル京都

TEL 075-341-1121

京都市下京区東堀川通り塩小路下ル松明町1番地

※各施設、営業時間に変更のある場合がございます。ご利用の際はご確認ください。

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