STORY

生粋の関西人の噺家も感嘆する関西みやげ本

ホテルで1冊

 

旅先やホテル滞在中に読みたい書籍を、さまざまな方の視点から紹介する連載。 Vol.4 選書:桂 米團治さん(落語家)

 大阪市南区(現・中央区)で生まれ、就学時代は大阪にほど近い尼崎市で過ごし、今も同じく大阪市に隣接する吹田市で暮らす生粋の関西人である桂 米團治さん。仕事の関係でリーガロイヤルホテルもよく利用するという。ロイヤルとご縁の深い米團治さんに“ホテルで読みたい一冊”を聞いた。

ホテルで読むなら、滞在地の情報本を

 

 ホテルはホッとできる場所ですから、長い小説や難しい哲学書を読むよりも僕は行った先の神社仏閣や名物、名産、食べ物屋などを紹介している本を読みます。その土地をより深く知ることができるし、すぐに役に立つし、楽しみが倍増しますからね。

『大阪名物』と『関西名物』で紹介されている「すし萬」の「小鯛雀鮨」と「メリッサ」の「鶴屋八幡あんぱん」
イラスト/塩川 いづみ 

 大阪やったら、関西のお土産にぴったりな食べ物や品物を紹介した『新版 大阪名物 なにわみやげ』と『関西名物 上方みやげ』という本がお薦めです。掲載されているものに外れがない。

 リーガロイヤルホテルだから言うわけじゃないですけど、『関西名物』にはホテルの1階にある「メリッサ」で売っている「鶴屋八幡つるやはちまんあんぱん」が載っています。大阪の老舗の和菓子屋「鶴屋八幡」の餡を酒種のパン生地で包み焼きあげたあんぱんで、私も大好きです。

 『大阪名物』には、リーガロイヤルホテルの地下にも店がある「すし萬」の「小鯛雀鮨こだいすずめずし」が紹介されています。僕は「これぞ大阪の味やろ」と思うんですよ。大阪のほんまの鮨は押し寿司。大阪は下品やと思われがちやけど、この小鯛雀鮨を口にされたら「なんと上品なんだろう」と感動します。

子どもの頃の思い出もよみがえる

 うちの母親がおせち料理に使っていた、「大寅」の蒲鉾と「岸澤屋」の黒豆も取り上げています。小学生の頃、お正月の前になったら母親が「大寅に行ってきて」言うて、心斎橋のお店まで行って予約したものを受け取ってくる、というのが僕の仕事でした。

 僕が育った尼崎の店も1軒入っているんですよ。尼崎は兵庫県だけど、電話の市外局番が06なので大阪の仲間にしてくれたのかな。それが「ヒノデ阿免本舗あめほんぽ」。原料はもち米だけで、砂糖も入れてない。商品も生の飴(水飴)と固い飴しかない。初めて食べたのは、ヒノデ阿免の方が父(桂)米朝のファンで楽屋に持って来られたのがきっかけだと思うんですが、「これ、美味しいがな」ってことになって。まぁ、ほとんど買いに行かずもろうてましたけど(笑)。米朝門下の弟子はみんな食べてます。そんなことを思い出すのも楽しいですね。

 もちろん昔から知っているお店ばかりではなくて、この本で教えてもらったところもたくさんあります。堺の「深清鮓ふかせずし」の穴子にぎりとかね。こんな美味しい穴子にぎりがあったのかと驚きましたよ。豚まんも「551」が人気ですけど、そこだけじゃないよと天満の「宝包パオパオ」を紹介しています。柿の葉寿司もぎょうさんあるけど、奈良・吉野の「やっこ」を選んでいて唸らせられます。

翌日が楽しみで幸せな気分になれる本

 今は食べ物や名品の情報がテレビやインターネットにあふれていて、どれを信じればいいのかわからないでしょう。

 この本の著者は井上 理津子さんと団田 芳子さん。井上さんは『さいごの色街 飛田』『大阪 下町酒場列伝』などの著者で、よく存じ上げています。団田さんはお会いしたことはないですけど、『あまから手帖』の中心的ライターとして活躍している方だそうです。

 しかも、これを出しているのが数少ない大阪生まれの出版社であり、地元を大事にしている創元社。そこが自信を持って出している本ですから間違いない。ただ十年以上前に出版したものなので、創元社にはもう在庫がなくなっていて書店に残っていればいいのですが、、、。紹介しているお店も、なくなったり移転したところもあるでしょうし、値段も高くなっていると思います。その辺は、それこそインターネットで調べてください。

 ホテルに宿泊する時は、「明日はここに行ってあれを食べよう、あそこに行ってこれ買おう」と幸せな気分になれるような本を選びたいですね。

『大阪名物 なにわみやげ』 『関西名物 上方みやげ』

全国流通の大量生産品でなく、そこでしか買えない手づくりの逸品を中心に、それぞれ厳選した約70品を紹介。和・洋菓子からパン、惣菜、漬物、酒肴、調味料、嗜好品、酒、日用雑貨、手工芸品に至るまで、旅行や散歩の愉しみに、また「手土産に買うべきものがない」と悩む多くの人に贈る、これぞ名物案内の決定版。

※現在、版元の創元社には在庫はございません。

桂 米團治(かつら・よねだんじ)

1958年大阪市生まれ。関西学院大学卒業。大学在学中の1978年、父の三代目桂 米朝に入門、桂 小米朝を名乗る。2008年五代目桂 米團治を襲名。2016年上方落語協会副会長に就任。趣味はピアノ、絵画、古代史研究と幅広い。アナログ人間を自称してきたが、コロナ禍にTwitter(現X)、YouTubeを開設。

Xアカウント:@yonedanji_k

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