STORY

「ホテルは思考するための場所であってほしい」

ホテルで1冊

旅先やホテル滞在中に読みたい書籍を、さまざまな方の視点から紹介する連載。
Vol.1 選書:シマダタモツさん(アートディレクター、SHIMADA DESIGN INC.代表)

 開幕まで2年をきった「2025年大阪・関西万博」。一般を含めて応募総数5,894点の中から最優秀に選ばれ大会公式ロゴマークが採用されたデザイナーが、シマダタモツさん率いる「TEAM INARI」だった。彼にとっての “ホテルで読みたい一冊”を聞いた。

デザインというもの、との出会い

 大阪の下町の、ちょっとやんちゃな普通の高校生でした。お年頃ですからファッションだけには興味がありました。かっこいいとかダサいとかのレベルでしたが、その差を生むのがデザインというものだとは、ずっと後になってから知ることになります。

 ファッション雑誌とか、かっこいいポスターとか、見た目から入る昔からの性格がデザインの仕事に導いてくれたのかもしれません。

イラスト/塩川 いづみ

ホテルで読みたい一冊はビジュアルの美しいものがいい

 ホテルには仕事柄、よく宿泊します。一泊の予定であっても、プライベートでもう一泊延長してホテルライフそのものを楽しむことが、自分にとってリラックスできる大切な時間です。

 広々としたゴージャスな調度品が置いてある部屋は好きではなくて、自分の中でちょっと一人では贅沢かなぁ…というくらいの広さの部屋が落ち着きます。できるだけシンプルでモダンな部屋がいいですね。グラフィックデザインと同じで、ホテルの空間も手ざわりや質感の心地よいところを選びます。

 そんなホテルライフで、よく部屋に持ち込むのが『VISIONAIRE(ヴィジョネア)』というファッション、アート、写真が一体となったニューヨーク発のアート雑誌です。いつも新刊が出ると必ず二冊購入して、一冊は仕事場でのストック用、もう一冊を持ち歩く“読む用”にしています。

 毎回装丁も凝っていてルイ・ヴィトンやエルメスなど、ハイブランドとのコラボレーションもあり、世界中のクリエーターから注目されている雑誌です。この雑誌のビジュアルに刺激されながら、次の仕事の構想を練るというのがホテルでの過ごし方です。だから“読む本”というより、僕の場合は“見る本”あるいは“眺める本”になってしまいます。

 お気に入りの本を眺めながら、一日中ホテルの部屋から出ないのが最高の贅沢な時間です。

2025年大阪・関西万博の公式ロゴマークは未来への希望を込めました

 グランプリを受賞して公式ロゴマークに採用されるとはまったく思っていませんでした。いつも一緒に仕事をしている事務所の仲間たちと、せっかく大阪で仕事をしているデザイン事務所なんだから、みんなで応募だけでもしてみようよ、という軽い気持ちで挑戦しました。だから個人名ではなく、チーム名でのエントリーでした。

 あの赤い目玉みたいなのは、細胞とその核をイメージしています。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマから、いのちってそもそもは動的なもので、その中では細胞がひしめき合い、形を変えたり増殖したりして日々変化している。そんな一つ所に止まっていない生命力を表現したかった。

 1970年の大阪万博の時、僕は5歳でした。岡本太郎のクリエイションに、子どもながらに驚いていたのを今でも鮮明に憶えています。そしてあの頃、周囲の大人たちは、とにかく熱かったのを感じていました。あの頃の大人たちのように、僕たちも、熱く万博を盛り上げていきたいですね。

シマダタモツ

1965年、大阪市出身。高校卒業後、松江寛之デザイン事務所を経て独立。企業の広告やVI(ビジュアル・アイデンティティ)、エディトリアルから空間まで、幅広いフィールドで活躍している。2009年、ニューヨークADCポスター部門金賞を受賞するなど、国内外で受賞歴多数。2020年、TEAM INARIの代表者として2025年大阪・関西万博公式ロゴマークのコンペティションにおいて最優秀賞に選ばれる。

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